Eno.371 リン  どうでもいいから - ひだまりの高原

調査を終えた者の多くはこの地を去るらしい。

この世界、この島々について何も知らなかった数週間前の自分とは違う。
定住する家屋はないが、食料や嗜好品の確保をする事は他者がいなくても可能だ。
今まで通り拠点やシェルで寝泊まりをしながら安住の地を探すだけ。

リン
「人の少ない島に小さな家を建てる事を目標にしよう」


誰も訪れない。悠々自適な生活が出来る場所。
庭を付け、日中は陽に当たりながらうたた寝が出来るような場所。

リン
「ランドラも悪くない働きをするようになってきた」


当初は彼らの力量を踏まえると、身の回りの事を全て任せるには
数十匹ほど確保しないといけないと思っていたが、
個々の成長は予想を大きく上回るモノであったので現状の数匹で事足りるだろう。
この世界における不労所得の形は以外にも身近にあったという事だ。
彼らに任せれば物資調達に関する問題の多くは解決する。

リン
「つまり、必要なのは『場所』だけだ」


この地で今まで他者と関わって来た理由は物資調達と安住の地に関する情報を集める為。
拠点やシェルで寝泊まりしている状況さえ無くせば全ての準備が完了する。
早急に手を打たなければならない食料問題や自衛手段が解決した今、
他者との交渉や取引が必要な状況でも無くなった。

リン
「……なんか思っていたより面倒ごとに巻き込まれた気がするな」


だが、私の望む怠惰終わりに影響が出る程ではない。
他者の中から私に関する記憶は薄れ、次第にその多くは新たな出会いや別れで風化する。

ひとつの出会いと別れを大切にする者はこれからの出会いと別れも大切にする。
たった数週間共にした者の事など生涯忘れないなんて事にはならない。
それよりも多くのモノを得るから。だから怠惰忘却に支障はない。

ひとつの出会いと別れに執着しない者はこれまでの出会いや別れと変わらない。
たった数週間共にした者の事など生涯忘れないなんて事にはならない。
それよりも多く過ごした者を大切にするから。だから怠惰忘却に支障はない。

誰の記憶にも残らぬ終わりはある。
たった数週間共にしただけの他者に私の夢を邪魔されてたまるか。

既に多くの者が去った。じきにこの地に残る判断をした奴ら以外は同様にここを去る。
去った者達がその後、どうなろうと私の知った事ではない。どうでもいい。
幸せに生きようが幸せにくたばろうが、不幸に生きようが不幸にくたばろうが知らん。


ニーナ
「私の事など思い返す暇もない程、充実した生涯であるといいな」




――どうでもいいから、自分に都合のいい彼らの行く末を想った。








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