Eno.494 運送屋  再配達 - くらやみの森

 最後に泣いたのはいつだったか思い出せない。
 感動ものの映画を見た時も、中学や高校の卒業式でも、祖父の葬式でも泣いた覚えはない。
 薄情とは、時折言われた事がある。
 最近はあまり言われないが。悲しむポーズも随分上手くなってきたので。
 ただ、このままでは何となく、両親が死んだ時すら泣けないのではないかと薄っすらした不安がある。

 両親は、人生計画が雑な所はあるが比較的良い親だと思う。
 姉、オレ、双子の妹2人を放り出さずに何とか育て上げたのは凄い。
 兄妹多すぎないかとも思うが、まあ妹2人は誤算だったのだろう。
 兎も角、子供の意思を尊重する良い親だったのだ。
 自分が大学に行かなかったのは、家計への負担を減らしたかったのもあったが、単に勉強に対して物凄くやる気が無かったという理由の方が大きい。
 オレが行きたいと言えば、両親はどうにかして学費を捻出したのだろうと思う。現に姉は大学に行ったし。
 彼らはオレを愛していただろうし、オレもそういう両親が好きだった。
 但し。
 それとこれは話が別なのだ。

 両親だけでなく、姉妹にも、友人にも、近所のお姉さんにも、どうにも情が薄い。
 仲は良いんだけど。
 縁が何となく切れたらそこまでだと、そう思っている自分が居る。そこに悲しむ余地など無い。
 何なら必要さえあれば、オレは多分いつもの様に彼らを殺す事すら出来るんだと思う。
 というか、それはポムを殺したその日、確信に変わった。

 自分は無自覚に手を汚し続ける悪人であるのだ。



 それでも、彼の魂が見つかった時、少し嬉しかった。
 くらやみの森の人々と共に育ててきて、オレが刈り取ったポムは、また新たに芽吹く事が出来る。
 その事実に喜びを感じたのだ。
 オレは人の心を未だ持ち合わせているんだと、思う。


運送屋
「そうだったら良いね」





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