Eno.663 ジオグリス=エーレンベルク  当たり前のように明日が来る - ひかりの森


「解っては……いたんですよね、はい……
 次元跳躍が外側までは出来るのに、増幅ふっかけたらどうなるか、なんて」


「本当に当時は申し訳ない事を、ああいえ、最悪な……最低なことを。
 ここにあんなのをどうにかできる戦力があったことが幸いです」


「外側突き抜けて、隣行っちゃうって考えられたはずなのにな……」



「罰なんじゃないか、ってずっと思ってるんです」


「……ええ、はい。死ねなくなったのはその時から。
 次元跳躍を人の身で何度も行ったせいで、
 身体が適応するように捻じ曲がったのでは、と聞きました。」


「再生って本当に痛いんですよ。
 俺こんなのやらせてたんだなって」


「でもずっと痛いわけじゃないからいいのかな……
 ……よく、耐えられたよな…………」



「明らかな異常存在、そりゃまあ、そうですよね。
 内臓ひとつ多いところまできっちりと」


「痛かったです。麻酔効かなくなってて。
 でもあれよりひどい痛みの経験があったので、どうにか」


「その後ですか?や、えっと……
 恥ずかしい話なんですけど、ぶっこ抜かれた多いところ見て
 うわ、調べたいな~って気持ちが出てきちゃって……」


「どうしてもってごねてたら今の所長が。
 まあその……よくそのまま雇ってくれたなっていうか……」


「変わり者しかいないですよね、ここ
 …………はい…………俺もです……」




「人間なんですよ。」


「そう見えないですよね。俺もそう思います。
 ついに体まで怪物になっちまったんだなって」


「所長やアルケアさんに聞けばこうなる前の事、教えてくれると思います。
 ……あの人が見たらなんていうのかな」


「……怪物になるぞ、貴様は、って言われたことがあって。
 あの人の言う事、ほんとに全部正しかったんだな」


「ああいえ、善い方ですよ!
 彼に救われた人間なので……」


「……いやほんとに人間です。
 こんななりですけど計測すると全部人だった時の数値出ますよ」


「本当ですって!
 2キロ減ったし健康診断鉄分足りなくて引っかかりました!」



「変異の原因……は、竜に縁があったからとか、
 何か変なものを取り込んだりしてないか……とか」


「まあ色々……?厳密には竜種じゃないそうです。
 別の何か……まあそうか、調べると人の結果出るし……」


「……せめて姿だけでも元に戻りたいですよ。
 俺は俺の事を忘れたくありません」


「聞けそうな友人はいるし、今は次元跳躍できるようになったので
 会いには……いけるんですけど」


「怖くて」


「人間のつもりです。
 こうなってからまだ2年で、人らしく生きた時間の方が多くて、」


「でもいつか、その比率は逆になる」


「怖いですよ、ほんとうに」


「…………でも、人の形のとり方は聞きに行きたいな……
 なんか感覚派の答えが返ってきそうな予感が半分あるけど……」




「あ、これです?
 大事なヤツからの贈り物です。や、婚姻とかではないんですけど」


「…………4年、5年かな。一緒に過ごしたものからの。
 ああくそ、やだな。嫌じゃない、そうじゃなくて……」


忘れたくない……


「……いえ、忘れてない、んです。
 特定の状況でだけ思い出せる、というか。」


「何か仕掛けてたんでしょうね。きっと」


「でも少し、感謝もしてて。何処から用意したのかわからないけど……」


「劣化しないんですよ、記憶が。
 このままじゃ何千、何百って生きる羽目になるのに。」


「……あんまり……思い出に縋りたく、ないんですけどね。
 甘えてしまう」


「…………普段でも思い出せたらいいのにな。
 夢に出てきて「俺ってものがありながら!」って叩かれたのは覚えてます」


「めちゃくちゃ弁解したような……だめだ、どうだったか……」


「…………いつか言いたいことが、あるのになあ……」



「死に方を探してます。」


!?
 死にたいわけじゃないですよ、やりたい事まだあるんで!?」


「けどその、いつか終れるようにしないと。
 やることなくなって、惰性で生きるのは……多分、つらい」


「いや当面死ぬつもりはないです!本当ですよ!
 あの子もいるので……」




「ああはい、アルケアさんやってくれましたよね。
 俺は死ぬかと思いましたけど……!!」


「……もうあれは、あの子は怪物じゃないです。
 ひとがたで、人格があって、それを怪物とは見れません。」


「毒性も殆ど無毒といっていいでしょうし。
 怒りを引き金にするのに怒りを持てない」


「……完全に無力化済みと判断されたら、
 自由にしてあげられるんでしょうけど。」


「ああやだな、なんか、思い出しそう」



「……はい?ええ、ジオグリスですけど……」


あの。あの。違います。
 なんでこんなに広まってるんですか?」


「エーレンベルク研究員は兎も角けっこうな人数が
 俺の名前間違って覚えてるんですよ!」


「ほら名札!」


「いや本当になんで俺だけ人名……
 あ。」


「すみません、通信取ります」




「こちらB、どうかしまし」


ボブ!!!!!!!!!!


(任意の悲鳴)



「なに、なにまじ、どうした?」


「(ノイズ音)いないのだ!!!!!!!!


「あ~~ああ、彼なら別室で海について話を……」


ボブ!!!!!!!!!!!!


「わかった!わかった話通してくるから!!」



「すみません、収容対象がすごいんで俺はこれで……」


――――――――――――――イモータルの落胤/エーレンベルク研究員の会話ログより



何時か答えを言える日が来るか、お前がもう一度生まれてくるか。
わかんないな。








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