Eno.125 食肉世界オブスキュラ  ■■を決す - くらやみの森

(1)
君の世界に足を踏み入れてから、大変な日々だった。
見るもの感じるものすべてが新しくて、体が順応するまで混乱しそうで。
何より言葉がネイティブ過ぎて聞き取れないこと!
話している状況や目線、身振りでどの言葉が何を指しているか、理解してしまえば楽だった。
文法の勉強と並行して何度も何度も聞いていけば言葉が分かるようになってきて…。
物凄く賢くなった気分だよ。

(2)
復讐が終わって。
やるべき事があるのは変わらないけれど、凄く今の時間余裕があるって感じている。
他者と過ごす時間は今までの中で一番長いのに、まだ飽きていない。
君は強欲で貪欲だからいつまでも飽きないのだろうけど、まさか俺も退屈だと思わないなんてね。
君が面白いからかな? それだけじゃないよね。

(3)
君ってまだ味覚戻らないの?
ご飯を作っても曖昧な顔でなんだか勿体ないな。
もし俺の体の一部を食べて味覚が戻れたらよかったのにね。あ、でも毒があるんだった。

(4)
レオスやエヴァンは元気にしてるかな?
あの場所ではずっと見ていた顔が見れなくなると途端に寂しく感じる。
お兄ちゃんって言ってくれてたエヴァンはもう大人になったかなぁ。
レオスも大人になったらあの態度も変わっちゃうのかな、それはそれで見てみたかったかも。
成長した姿、見たかったな。

(5)
血に混じった毒で何か出来ないか実験してみる。
凝固させるのが難しくてぶよぶよになった。もう少し練習しないと駄目みたい。

(6)
今度はちゃんと固まってくれた。見た目は小さい石。
でも間違って割れたり飲んじゃったりしたら大変な事になるから厳重に保管。
偽イチゴが取り出したら大変!どらきちの手にも届かない所にしなきゃね。
箱に入れて引き出しの奥にしまっておけばいいかな~。

(7)
海に行ったのはいつだったかな、もう結構前?月日が経つのって早いねぇ。
君が絶対海を見せてくれるって約束してくれた時、嬉しかったな。
いや、今までも嬉しい出来事は沢山あったんだけど、俺の為に約束してくれたのが嬉しかったのかも。
未来の約束って口約束でも言うのは難しいから。
でも本当に叶ったからもっと嬉しかったな。

(8)
前々からそうだけど君ってキスすると思考が止まったような顔をするから面白いよね。
いい加減慣れればいいのに!まぁ、面白いからやっちゃうんだけど。
慣れられたらそれはそれで面白くない……かも…?

(9)
最近やたらと眠くなる。嫌だ。
きっともう生命活動が衰えてきてるんだ、俺の体は長く生きられるように出来てない。
分かっていたけど嫌だな、もっと楽しい時間を過ごしたい。
一緒に寝ると暖かい。こうするのもあと少しなんだろうな。

(10)
暇な時、君を観察してると面白いことに気付いた。
じっと見てたら視線に気づくのかな~って気づくまでの時間を計ってみたり、
見られてないだろうと思ってる気の抜けた姿をこっそり見たり。
気付かれると何でもないよって俺が毎回嘘ついてるの気づいてる?

(11)
まだ死にたくない、

(12)
今日は眠気を我慢して嫌がらせのラストスパートに取り掛かりたい。
君と出会って一緒に過ごしてもう4年。
俺にとっては4年も一緒は長いと思うけど君はどうかな?まだまだ短いって思っちゃう?
これから先も一緒にいるんだって思ってくれてるかな。
でもね、本当はそれが叶わないってずっとずっと昔から俺は知っていたよ。

(13)
君のものであり、人形であり、愛猫であると思い続けて4年。

俺は遂に分かった。
ずっとずっと前から気付いてたのかもしれないけど、今、確実に分かったんだ。


君には分かる?

(14)
流石に読まれる前提で書いてるのに気づいた?
そう!これも嫌がらせの一つなんだ。
俺がいなくなった後に君が読んでくれることを期待して、記録してる。
しかもわざわざこの世界の文字でね!随分と使い続けた文字だよね。
まぁ、文字なら嘘をつく必要がないでしょう?

君はこの数年間、便利だった?有意義だった?快適だった?
答えがどうであれ俺が聞けることはもう二度とないんだな。

(15)
この日記を書くのも最後になるだろうから書いておこうかな。
俺が死んだら持っていた道具は好きに使っていいよ。
使われない物ほど悲しいものは無いからね。
もしかしたら面倒な事を起こしちゃうかもしれないし。

あと君とお揃いだった指輪が無くなっても探さないでね!
どうしてかって?それは自分で考えてみてよ。

18で終わるかと思われた人生、まさか30歳まで続くなんてなぁ。
いや…それどころかこんなに充実した時間を過ごすとも思わなかったよ。
全てが良い方向に、なんてことはないし間違った選択ばかりだったし、
色々あったけれど確実に言えるのはさ。

暗い部屋オブスキュラから抜け出させてくれたのは君のお陰だよ。

ねぇ、君は気づいてる?
どうしてこんな遅効性の嫌がらせをしてるのか。

最初は単なる嫌味だったさ、ずっと引き摺るように苦しめばいいって。
憎んではいなかったけど純粋な気持ちでいられるわけもなかったし。
自分のやった事の重大さにゆっくりと苦しめばよかったんだ。
だから俺の寿命が少ない事も、レオスから貰った毒の事も言わなかった。
そう、この毒って死んでも残り続けるみたいだよ?大変なことになったらゴメンね。
最後のページに毒の特徴やエヴァンから貰った指輪の事書いておくからさ!

でもそうまでして君に、この世界に爪痕が残せるならいいなって思ったりもしてた。

今この瞬間もどうしようもない性格、本質は変わらなくてさ。
君と分かり合えても、根っこから全て変わるなんて無理で。

単純で綺麗な感情なんて持ってないし回りくどい方法しか出来ないし
嘘ばっかりついて、本音を打ち明けても肝心なところはずっと隠してた。
全てに嫉妬や羨望を抱き続けてぐちゃぐちゃになったりもしたけれど
その中で、ようやく一つだけ辿り着いたものがあるんだ。

人はそれを違うというかもしれない、全く別のものだと言うかもしれない。
でもね、俺の中では初めて手に入れた■■なんだ。

君に今まで伝えなかった事だよ。わざとね。


あぁ、そうそう。知ってる?
何処かの国ではマルルーって感謝の言葉なんだって!今となっちゃあながち間違いじゃないかもね。
それじゃあ本当にこれで最後。君に捧げた一生も終わり。





いつか答えを聞かせてね。








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