Eno.303 ヌル  失われた通話記録 - ひだまりの高原

我々の研究成果についてですか?
はい、もちろんお話しますよ。

…だから、上への許可取りをお願いしますね。

多臓器不全で死んだ献体者に、不死性を持つ化物を欠片を移植し
臓器が再生するかどうかを調査する…それが本来の研究です。
それが、身体と欠片の相性が偶然マッチしてしまった影響で
蘇生まで果たし、自我まで生まれていました。
まったくもって想定外です。

…本人なのかどうか、ですか?
違います。すでに死んだ人間ですよ。
あれはただ死んだ人間の真似事をしているだけです。

記憶なんてありませんよ。
ただの化物の欠片が何を覚えていると言うんですか。
自我などあるからありもしない記憶なんか探すんです。

余計なことにならないように
その身体の本名などの情報は全て教えませんでした。
…あまりにもしつこく聞くものだから
ある研究者が「ヌル」だなんて名前を付けましてね。
…ははは、皮肉でつけた名前ですよ。「何もない」なんてね。
ついでなので、個体番号の代わりにしましたよ。

もちろん、結果としては想定外でしたが
ただの欠片が肉体を得たことで、さらに得るものがあると思っていました。

…ですが、採取した血肉に取り込んだ欠片と同等の力はありませんでした。
人間の血肉と変わりません。
人並み以上の再生力は持ち合わせていますが、痛覚が著しく鈍くなっていることも確認しています。
そのため、自らの肉体の損傷に数時間近く気づけないのです。
…はい、そうです。不死ではありません。
数時間後に痛みに気づく程度の再生力で、不死となるわけがありません。
…それでも、普通の人間よりは傷が治るのは速いですけどね。

あの尾ですか?化物の欠片が脊髄の方にまで浸食しているようで
その結果あのようなものが生えたのかと。
あぁ、いえ、これは想定でしかありません。よく分からないんですよ。
ですが、今の所ただ生えているだけですからね。問題はありません。

人間にもなりきれず、化物にもなりきれない。
――そう、全て中途半端な出来損ないです。

だから、廃棄処分をしたいんです。
一応、上の許可を取らないといけないでしょう?

使い道はないのか…ですか?
ないというのが我々の判断です。
だから、移植した部分と…あの尾だけ回収して処分してしまおうかと。
それだけは使い道がありますからね。

今は大人しいのですぐに処分出来ます。
だから早く許可だけ…お願いしますよ。



…通話の内容はここで終わっている。








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