Eno.357 キョク  追憶 竈に火を焚べた後 - はじまりの場所

久度春
世継ぎです

旭丹王
ハァ?

久度春
「久度春家の長男です。お宮参りと思い、
 是非、王にも抱えていただいて、
 祝福をいただけまぬか」

旭丹王
ハァ???
 こんな土まみれのとこまで赤子なんぞ運んでくるでないわ。
 容易く死ぬぞ!

久度春
「まあまあ、王がお守りくださいますでしょう?
 はい、抱っこ。

旭丹王
おいおいおいおいおいおいコラコラコラコラ!

ベビ春
エ゛ぇええええ

旭丹王
「う、ウゥワ わ」

久度春
「ははは、元気元気。
 こう抱き寄せるようにすると良いですよ、王」

久度春
「っと、おや……伝令の鳥が。
 ……なるほど」

旭丹王
おいおいおいおい
 人に赤子押し付けて鳥と戯れるでないわ!

久度春
「ああ、申し訳ございません、王。
 どうやらまた漁師たちが揉めているようで。
 えーと……
 『サンゴにつく植物とはどれのことか』
 『貝採集時、殻についた藻類を引き上げることは殺生にあたるか』……」

旭丹王
「またそういうのか!
 そもそもあいつら植物を視認すらできないことが多すぎる!」

ベビ春
あぃ

旭丹王
よし落ち着け。落ち着け、そうだ。
 やはり、植物ひとつひとつの殺生に目くじらを立てるのは
 到底不可能に近かろう。

 春を呼ばねば春柱の草木は立ち行かず、
 春を呼ぶため我は人の子と共に生き、
 人の子は植物を食らい消費することを避けられぬ」

ベビ春
「ゔううぇ」

旭丹王
「この島から冬を奪ったのは我が所業。わが責。
 その皺寄せが他の植物ばかりに行くのは不本意である。
 が、折り合いは……必」

ベビ春
ぇええああああ゛!

旭丹王
うるさああああい!!

久度春
「ええと……二重の意味で面目次第も……ええ。
 ですが、種の保存と繁栄には必ず努めます。
 美しい花は、豊かな実りは、どれも彼らにとって子孫を残す術。
 あなた様の大きな『譲歩』には、我々も全力で応えねば」

旭丹王
「いや、お前もあまり根を詰め過ぎるな。
 傷が開いてはかなわぬだろう」

久度春
「ああ、いえ。私はもうすっかり。
 あれももう随分前のことですし」

旭丹王
「そうだっけ?
 ついこの間のことだと思ったがな」

久度春
「それよりも、まだまだこの島の法は発展途上です。
 まずは急いで漁師たちの言い分を聞いてきませんと」

旭丹王
「ん?」

久度春
少しその子のことをお願いします!

旭丹王
ハァ!? ちょ、ま おい!

ベビ春
ぶぇえええええ

旭丹王
久度春〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!









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