Eno.113 メリジェ  20:あなたへの手紙 - まぼろしの森林

昼の眷属と夜の眷属が共に暮らすようになって、1000年。



待望のお祭りは、それはそれは盛大に。
遠くの街からのヒューマンの観光客に、
夜の眷属の大道芸の旅団もやってきて。
太陽と月の旗がそこかしこで風になびき、
色鮮やかなフラワーシャワーが散らされて。



ロザリー
「今年も出てたわね、
 『名前を言ってはいけないおやつ』」

メリジェ
「それ、ソラニワにもあったよお。
 全国区なのお?」

ロザリー
「美味しく、名前を言ったが最後
 争いの世が始まってしまう……。
 その背徳感は全世界共通なのね」

オズ
「ロザリーの趣味、全然わからん」

ソロル
「お〜い若人ども、飴ちゃんじゃぞ〜」

メリジェ
「あ!町長さんの飴だあ〜
 あたし四人分もらってくるねえ!」

オズ
「メリジェの食欲もよくわからん……」

ロザリー
「あなたがちゃっかりコンテストで
 参加賞貰ってるのも謎なのよね」

オズ
「2位の産直香味野菜セットが欲しかったのに
 商品券しか貰えなかった。出損だ」

ロザリー
「あれ心のイケメンコンテストだから……」




アイオン
「……祭りは落ち着かないな」

ユグネラ
「ふふ、そうね。何年経っても浮き足立つわ」

アイオン
「ふたりだけでとメリジェに言われてしまったし」

ユグネラ
「子どもに気を遣われるなんてね。
 ……あの子は大きくなったわね」

アイオン
「ああ。」

ユグネラ
「最近、出会った頃を思い出すの。
 あたしが十数年ぶりにこの町に戻ってきたら、
 あなたがここに住もうとしていて。
 夜の眷属であることを、
 とても申し訳なさそうにしていたオークは珍しくて」

アイオン
「ここに来るまでに色々あった、それだけだ」

ユグネラ
「それを、優しさにできるあなたが好きよ。
 ……ありがとう、一緒になってくれて」




やがて、夜も来る。
花火が上がる。魔女が夜空に星を流す。
マーメイドのアイドルがコンサートで歌い、
森は酒と音楽でどんちゃん騒ぎ。
祭りは月が3回沈むまで続く。



魔王
「……」

魔王が星を眺めている。
勇者
「魔王さまじゃ〜ん。仕事は?」

魔王
「今年だけだ、サボりは。
 お前こそ、メリジェと回るつもりでは」

勇者
「ハタチそこらの若者グループに
 ずかずか割って入る勇気はないよ」

魔王
「勇者の名前も錆びたものだな」

勇者
「まあ魔王さまが来てるなら
 僕が遊んでやらなくもないよ」

 
「なら丁度いい。
 あっちの屋台も行きたかった」
「……威厳どっか行くから、
 その浮かれ装備はやめて!」




 
「あ、ソロル〜」
「久しいな」
「勇者と魔王の揃い踏みか」

ソロル
「ふふん、どうじゃ、わしの自慢の町は」

魔王
「ソロルにそんな才能があったとは」

勇者
「魔王さまにトップの素質がないだけだよ!」

魔王
「そう言われても仕方はない……。
 我はずっと書き物をしていたいだけだからな」

ソロル
「まーまーそう言うて、
 魔王も楽しそうにしておるじゃないか」

勇者
「僕よりずっと適応してるよ〜」

 
「体験せねばわからぬこともある……」




オズ
「(落ち着きなくうろついている)」

ロザリー
「メリジェが彼を案内してるからって
 どうしてそんなにドタドタしてるの
 うるさいわよ」

オズ
「ち、違えし……」

オズ
「(言えるか〜〜!
  お前片思い相手と2人だと間が持たないって!)」

オズ
「(あんなこと話すんじゃなかった!
  メチャクチャ別行動させられてるじゃねーか!
  いいやつすぎて困っちまうぜクソ……)」

 
「うるさいからいななかないで」
「ハイ……」


















楽しいことが楽しいのは、終わりがあるからだ。
だけれど。


メリジェ
「お父さん、お母さん〜」

 
「どうしたの?」


手招きするのは、森一番の大樹のそばの、ステージの上。
懐から手紙を取り出して。
読み上げる。

『お父さんとお母さんへ
 結婚100周年、おめでとお!
 あたしを産んでくれて、ありがとお。
 お父さんとお母さんみたいに、
 昼と夜が仲良く暮らせる、
 この世界があたしは大好きだよお。
 だから、少しでも長く、永遠に。
 みんなが仲良くいられますように。
 お願いを込めて、リースを作りましたあ。
 受け取ってくださあい!
              メリジェ 』



白く揺れる花と、森の香りを纏った翠の、
永遠の象徴を。
大切な友達と作った、想いのこもったエバーグリーン・リースを。

受け取った両親がふたりで子を抱きしめて、
皆がそれを見守っていた。



メリジェは、昼の眷属と夜の眷属の間に生まれた、
この世界で最初の子。
彼女の命の長さは、誰にもわからない。
でももう、ひとりを怖がることはない。



そして。
最後の月が沈んだ後は、フィナーレに。
皆で空へと紙飛行機を飛ばす。
未来への願いを言葉に託して。



メリジェ
「精霊さん、よろしくねえ〜!」


昼と夜の向こう、
至高なる青Supernal Blueへ向けて。



言葉を乗せた紙飛行機が飛んでいく。
もしかしたら、あなたの空にも。
























純に願えば。それはきっと、一秒でも永く。








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