Eno.76 ナハト・フルーレ  理由 - ひかりの森

 ここに来る前に、アイツと喧嘩をした。

 いつもの喧嘩だった。


 何気ない。一言だった。


 『お前なんかどっか行けばいいんだよ。』

 そうだな、いつもお前はそういうよな。
 でもは、どうにも出来ないんだよな。

 そんな時に見つけたんだ。招待状。
 
 
 流石に勝手に行く訳には行かないから、いつもの様に父さんに許可取って。
 喧嘩してごめんなさいなんて、いつも俺らは言わないから。
 そのまま黙ってこっちに来たんだ。

 別にアイツと離れたかったわけじゃない。
 気まぐれだ。

 気分転換に、可愛いものでも探そう。とか。
 ま、建前だけどそんな事を思って。

 俺はここに来たんだ。

 あの家は、窮屈なんだ。
 どうせ俺は。絶対に逃げる事なんてできない。

 見捨てられないから。のせいで、アイツは。

 ……だからさ、色んなところに行って、色んなものを見て。
 考えないようにしてるんだ。

 
 ……いい事ばかりじゃない。嫌なものが見える時もある。
 世界は平等なんかじゃない。

 みんなが幸せな、理想を脳内に描いて
 描いて、それを遂行する過程なんて、無い。と。

 
 ふと、脳内に偶によぎった思考。


 全部壊してしまえばいい。

 どうせ、僕達はこの家フルーレに囚われたまま。

 壊してしまった方が、救いになるんじゃないか?



 ……いいや、無いな。

 逃げてるだけだ。

 

 今は、何もしない。このままでいい。

 帰りの時は、もう少しだ。








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