Eno.704 敏腕エージェント猫ルチル 魔法が解けて - はじまりの場所
敏腕エージェント ルチル
地獄のレテ川に落っこちて自分の事を悪魔だと信じて勤めている猫
ワードストーンの力によって望む悪魔の姿を得ていた。
最初の堕天使ルシフェルは神の作りたもうた存在を愛していた。
しかし、それらは等しく罪を持つが故に一度限りで果てる存在だった。
どうしたら彼らの罪を拭う事ができるのですか?
その問いによって彼は堕ちる事となる。
だが彼はそれでも良いと思った。
この身が罪に染まろうとも愛しき存在の罪を拭う事ができるならば、
彼らは輪廻を巡り、世界を廻り、いつか、自分たちの見た事のない、
途方もない物を、大輪の花を咲かせるが如きそれを見せてくれるだろう。
こうしてルシフェルは地獄の王サタンとなったのだ。
伝承の多くはここで終わっているが、実はまだ続きがある。
堕天使ルシフェルは猫を飼っていたのだ。
語弊は多くあるがいったんは飼っていたという事にしておこう。
知っての通り、猫には九生があり、さらに猫の天国があったのだ。
地獄を築く時にその愛猫とは別れる事になる。
ルシフェルはきっと自分の事を忘れて次の生と猫の天国を謳歌すると考えていた。
しかし、猫は親切で義理堅い生き物だったのだ。
長い長い時間が過ぎて、ルシフェルはサタンとして地獄を治め……
治めきれなくなって倒れていた。
年に一日で良いから家に帰って休日を取りたい……
その為なら猫の手でも何でも借りよう……
言い回しがなんだろうと彼は猫の手を借りたいと言ったのだ。
愛猫が長い長い間待っていたその時だった。
~~~
猫はとても賢かった。
彼が愛した存在をじっと眺め、知り、理解していった。
いつか来るべき時のために彼はさらに学ぶ。
契約を結ぶこと、そして人々に猫を派遣する事を。
~~~
彼の地獄のシステムはこうだ。
悩みを持つ者、躓いた者、葛藤を抱く者……
つまりつけ入る隙を持つ存在に、
猫を派遣する。
もちろんただの猫ではない。
プロの猫だ。
無気力な者を奮い立たせるために餌をねだり、
躓いた者の手へ走り自分の顔を撫でさせ、
悩める者にありのままで良いと己が姿で体現する。
そしていつかその者たちは猫を通して日々を自らの足で立つようになり、
求めるものをその手で掴み、己が導いた答えを持って生きるようになる。
猫は先に逝ってしまうがその先も辛抱強く待っている。
彼らが来るのをアケロン川のほとりでゆっくりと待つのだ。
自らが担当した者がどんな顔でここに来るか、
きっと穏やかな顔でここに来ると信じているが、
それでも猫は心配性なので顔を見るまでは安心できない。
その者が素っ頓狂な声を上げる時、猫たちは笑う。
スンと澄ました顔で立ち上がりそして撫でさせてやるのだ。
やれ来るのが早かったんじゃないか?と尻尾をブンブン振りながら。
そしてカロンの渡し守へと案内をしてやる。
もちろんこの時に猫は船には乗らない。乗る必要も無いからだ。
そうすると甘えん坊なその者は一緒に来てほしそうにするが、
すまし顔で見送るのが猫の役割だ。
そちらに記憶が無かろうと、こっちが着替えていようと、
また会えるとわかっているからだ。
だが、それでうんと頷かない者がいる。
そうしたら仕方ないなともったいぶって教えてやるんだ。
地獄の悪魔に堕ちればずっと一緒に居てやれるぞ、と。
悩め、悩め悩め、存分に悩むが良い。
別にこっちとしてはどっちでも良いしまた会える。
前の時の事を思い出してあくびを出す事が増えるくらい。
思い出を一からもう一度作る楽しみがあるくらい。
もう一度同じ名前で呼んでもらえないくらい。
それなのに悪魔になるっていう者がいるのだから仕方ない。
こっちもそれに応えてやるのが義理堅い猫というものだ。
地獄は大変な所だぞ。
1日8時間働かないといけないし週休は3日だけ、
昼寝したくても勝手にはできないぞ。
ボーナスも出るけどよく考えて使うんだぞ。
怪我や病気したら苦い薬や痛い注射が飛んできて……
ちゃんと通じてるかな?
猫の言葉は難しいみたいで仕方がない……
~~~
地獄をこんな風に変えたルシフェルの愛猫は満足していた。
自分のやりたかった事、役目を終えて伸びをする。
その拍子にレテ川に落ちてしまった。
キレイさっぱり殆どの事を忘れてしまっているのに
仕事の事にだけはやけに熱心で仕方なかった。
なので地獄も猫の天国も彼に休暇を出す事にした。
ちょうど観光地の招待状も来ている事だし、と。
………
……
…
ルシフェルの愛猫はちょっとした願いがひとつだけあった。
自分も悪魔になりたい、そして猫以外の存在と喋ってみたい。
言葉を交わしてみたい。
我々にはニャーニャーとしか聞こえない高等言語だが、
ワードストーンには通じたようだ。
彼はほんの少しの間だけ、悪魔ルチルとなった。
地獄のレテ川に落っこちて自分の事を悪魔だと信じて勤めている猫
ワードストーンの力によって望む悪魔の姿を得ていた。
最初の堕天使ルシフェルは神の作りたもうた存在を愛していた。
しかし、それらは等しく罪を持つが故に一度限りで果てる存在だった。
どうしたら彼らの罪を拭う事ができるのですか?
その問いによって彼は堕ちる事となる。
だが彼はそれでも良いと思った。
この身が罪に染まろうとも愛しき存在の罪を拭う事ができるならば、
彼らは輪廻を巡り、世界を廻り、いつか、自分たちの見た事のない、
途方もない物を、大輪の花を咲かせるが如きそれを見せてくれるだろう。
こうしてルシフェルは地獄の王サタンとなったのだ。
伝承の多くはここで終わっているが、実はまだ続きがある。
堕天使ルシフェルは猫を飼っていたのだ。
語弊は多くあるがいったんは飼っていたという事にしておこう。
知っての通り、猫には九生があり、さらに猫の天国があったのだ。
地獄を築く時にその愛猫とは別れる事になる。
ルシフェルはきっと自分の事を忘れて次の生と猫の天国を謳歌すると考えていた。
しかし、猫は親切で義理堅い生き物だったのだ。
長い長い時間が過ぎて、ルシフェルはサタンとして地獄を治め……
治めきれなくなって倒れていた。
年に一日で良いから家に帰って休日を取りたい……
その為なら猫の手でも何でも借りよう……
言い回しがなんだろうと彼は猫の手を借りたいと言ったのだ。
愛猫が長い長い間待っていたその時だった。
~~~
猫はとても賢かった。
彼が愛した存在をじっと眺め、知り、理解していった。
いつか来るべき時のために彼はさらに学ぶ。
契約を結ぶこと、そして人々に猫を派遣する事を。
~~~
彼の地獄のシステムはこうだ。
悩みを持つ者、躓いた者、葛藤を抱く者……
つまりつけ入る隙を持つ存在に、
猫を派遣する。
もちろんただの猫ではない。
プロの猫だ。
無気力な者を奮い立たせるために餌をねだり、
躓いた者の手へ走り自分の顔を撫でさせ、
悩める者にありのままで良いと己が姿で体現する。
そしていつかその者たちは猫を通して日々を自らの足で立つようになり、
求めるものをその手で掴み、己が導いた答えを持って生きるようになる。
猫は先に逝ってしまうがその先も辛抱強く待っている。
彼らが来るのをアケロン川のほとりでゆっくりと待つのだ。
自らが担当した者がどんな顔でここに来るか、
きっと穏やかな顔でここに来ると信じているが、
それでも猫は心配性なので顔を見るまでは安心できない。
その者が素っ頓狂な声を上げる時、猫たちは笑う。
スンと澄ました顔で立ち上がりそして撫でさせてやるのだ。
やれ来るのが早かったんじゃないか?と尻尾をブンブン振りながら。
そしてカロンの渡し守へと案内をしてやる。
もちろんこの時に猫は船には乗らない。乗る必要も無いからだ。
そうすると甘えん坊なその者は一緒に来てほしそうにするが、
すまし顔で見送るのが猫の役割だ。
そちらに記憶が無かろうと、こっちが着替えていようと、
また会えるとわかっているからだ。
だが、それでうんと頷かない者がいる。
そうしたら仕方ないなともったいぶって教えてやるんだ。
地獄の悪魔に堕ちればずっと一緒に居てやれるぞ、と。
悩め、悩め悩め、存分に悩むが良い。
別にこっちとしてはどっちでも良いしまた会える。
前の時の事を思い出してあくびを出す事が増えるくらい。
思い出を一からもう一度作る楽しみがあるくらい。
もう一度同じ名前で呼んでもらえないくらい。
それなのに悪魔になるっていう者がいるのだから仕方ない。
こっちもそれに応えてやるのが義理堅い猫というものだ。
地獄は大変な所だぞ。
1日8時間働かないといけないし週休は3日だけ、
昼寝したくても勝手にはできないぞ。
ボーナスも出るけどよく考えて使うんだぞ。
怪我や病気したら苦い薬や痛い注射が飛んできて……
ちゃんと通じてるかな?
猫の言葉は難しいみたいで仕方がない……
~~~
地獄をこんな風に変えたルシフェルの愛猫は満足していた。
自分のやりたかった事、役目を終えて伸びをする。
その拍子にレテ川に落ちてしまった。
キレイさっぱり殆どの事を忘れてしまっているのに
仕事の事にだけはやけに熱心で仕方なかった。
なので地獄も猫の天国も彼に休暇を出す事にした。
ちょうど観光地の招待状も来ている事だし、と。
………
……
…
ルシフェルの愛猫はちょっとした願いがひとつだけあった。
自分も悪魔になりたい、そして猫以外の存在と喋ってみたい。
言葉を交わしてみたい。
我々にはニャーニャーとしか聞こえない高等言語だが、
ワードストーンには通じたようだ。
彼はほんの少しの間だけ、悪魔ルチルとなった。