Eno.305 雨降る旧校舎の噂  うわさばなし - あざやかな花園

ねえねえ、知ってる?こんなうわさ!


「雨降る旧校舎の噂!」

「顔の見えない子が、いるんだって」
「生きてるの? 人を襲うかも」
「いやいや、他の七不思議に合わないように、帰り道案内してくれるんだって」
「ななふしぎって? あの獏のとか、学校をさまようオバケのやつ?」
「そうそう―― 怖い オバケの噂」


どうやら、自分は、噂話となって生きてるみたい。

本当のことをしらない
知ることができない

いつかは忘れられるような
曖昧になっていくような

噂が立ってる時は、皆しっかり覚えているけれど
静かになれば忘れゆくような。

そういう。


「七不思議から飛び出して、いっそお店の噂になればよくね?」


できるかどうかは知らないけれど。

元々人間だし。
とはいえ、なんていうか。


「戻ることには、焦らなくとも 戻らなくてもいいかなとか」


それでも、怪異にはきちんと聞きたい事がある。
だから、曖昧にはするつもりはない。

きがついたら、思い出が沢山になっていた。

帰ったら沢山かざろうね。思い出を。


「お菓子屋さん。 絶対やろうね 皆でまた会えたらいいね」


一歩 ふみだして 鈴を鳴らす。

一歩 歩いて ぬいぐるみを抱きしめる。

一歩 歩いて その証を撫で

一歩 歩いて、鞄に入れたそのクッションを撫でた。

一歩 歩いて、 美しい花を見た。ベルの綺麗な花を。

一歩 歩いて、花束を見る。 お店のオープンを思い出した。

一歩 歩いて、 ふかふかのオーナメントを思い出す。 久しぶりの楽しいクリスマスだった。

一歩 歩いて、お揃いのぬいぐるみを高くに掲げ

一歩 歩いて、 大きな抱き枕 ちょっと背負い直してさ

一歩 歩いて、 鞄につけた、キーホルダーを揺らして

一歩 歩いて、 あいぼーを思い出すように、ぬいぐるみをポケットへ

一歩 歩いて、 木彫りの温かみを感じた。

一歩 歩いて 振り返り タルト・タタンの甘い香りを思い出す。

一歩 歩いて 先へ進む。 チラシを思い出しては、笑った。

一歩 歩いて 空を見上げる。 沢山打ちあがった花火を思い出して。

それから 走った。


雨が降ったら帰ろうね。
ぬれてしまうよ。

しとしと ぽつぽつ。


噂は静かにきえていく。

はじめからなかったみたいに。

けれど、噂は、思い出せるものですから。

思い出されたとき、また広がって、現れるものですから。



「また、どこかで!!!」









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