Eno.371 リン  記憶にも残らぬ怠惰 - ひみつの庭

ーー労せず悠々自適な生活が欲しい。
それは私の望みではなく彼らの望みだった。

ーー金や酒や煙草が欲しい。
それも私の望みではなく散っていった者達が欲していた物だった。

他者の命を奪い、戦を共にした者達の命を失い、この命は長らえている。
そう簡単に手放すわけにはいかない。彼らの死を無駄になどしてなるものか。
お前らの死の先にある私という結果が、お前らの望んだモノに辿り着いてやる。
そうして最期の時まで生き抜き、全てを手にしたあかつきには
ただ静かに称賛など無い終わりを迎えられる場所が欲しい。

それには他者から遠い存在となり、特別な者にならないようにする必要がある。
それには他者から認められぬ、友好的では無い者である必要がある。
それには他者から忌むべき者となる自分勝手な怠け者になる必要がある。

称賛なく朽ち果てるには称賛する者が居なければいい。
「よく頑張った」と自分が、他者がそう思わなければ
その者は怠惰となって人々の記憶から消えてなくなる。
死後も尚、皆から惜しまれる者達は相応にそれまで他者に何かを残している。
だから私は残さない。またの機会という次の場を残さずにその場限りの関係のみを築く。


私が消えて困る者など一人も出来ないで欲しい。
そうしないと代えのきく、ただの対等な存在であり続けた意味がなくなってしまうから。

私が消える時、傍にいる者など一人も出来ないで欲しい。
花を手向けるような者が現れる事を心の底から恐れている。


リン
「求めるのは最期の時まで生き抜いた先にある誰の記憶にも残らぬ終わり」



この世界の事情に疎いから適した場所が無いか探し、尋ねた。
この島に望んだ場所があるのか情報を集める為に様々な者達と会話を重ねた。
この地は資源が豊かで、元の世界と比べると平穏だ。
辺境に定住すれば他者との関係を一切必要としない生活を送る事も可能だろう。


リン
「称賛なき怠惰な終わりを望んでいる」



歩んできた道を否定しないが、称賛を得るモノでは無かった事を知っている。
私が居なくなっても誰も悲しむ事の無い、怠惰にその時を迎えられる死に場所を私は求めている。








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