Eno.599 吠え声  「……」 - めざめの平原

 

 
白くて小さなランドラには、子供から流れる雫の意味がよく分からなかった。


ランドラは子供に着いていくようになってから実にたくさんのごちそうをもらった。
良い土から始まって、そのままの果実や花、子供や人が料理してくれたもの。
ランドラが無理やり分け合わせたもの。子供が人にもらって分け合ったもの。

子供はほとんど食べないけど、それでも分け合う行為が人にとって何か意味があるのだけは理解していた。
今日もらった甘いケーキも、また同じだった。

それでもランドラは植物でもあるので、水が大事なものの一つであることも変わらない。
ごちそうが嗜好品であるならば、水は主食だ。枯れず動くため無くてはならないものなのだ。

だから、子供が今それを幾つも零してしまってるのはあんまり良くないように思えた。
よく見る人間たちと比べて細っこいこの生き物が、枯れて倒れてしまいやしないかと思って、
足元をちょろちょろと回って止めたほうがいいと鳴いた。


それで、子供は首を横に振った。

人を見てきたから、その意味が「やりたくない」ことに対して返す動きだと知っている。
水を流すことを止めたくないのかと、困惑した。
困惑したので、ちょっとだけ止まって考えた。

まさに幼子のようなたちであった白いランドラにも、
人の真似をするうち、興味が向けばその意味をなんとなく量ろうとする程の頭は確かにあったから、
流すことを止めない理由を、零される雫の訳を考えて。

それが、さっきのランドラの"プレゼント着いていく"に対する答えなのだとようやくわかった。

子供は子供の世界に、自分を連れていく気はなくて。
大事な水を流すくらい、やりたくないことなのだなと理解した。


そしてプレゼント自分が要らないと言われたのなら、持って去るだけだ。
ランドラは元々いたこの島に残ったって別に不都合があるわけじゃなかったし。
また着いていくのは別に子供じゃなくたって構わない。

何より子供はほんとに大事なものは、どうやら一度も出さず仕舞っておくのも見てきたから知っていた。
知っていたから、白いランドラにとって自分がその中に入れないのは、そういうことだった。

離れるのだから、ふたりが同じ話をすることは多分もうない。
そもそも鳴き声植物鳴き声だった。会話なんて一度もしたことなかった。

それだけだから、それでお別れ。




でも、

子供のあの「ウー」と初めに唸った声が己を呼んだのではなく否定だといつか知って、
だけどもあれ以来自分が着いてくることを一回も否定しなかったから、

これは本当に自分のための呼び名になったんだとわかった時のこと、何だか思い出していた。











<< 戻る