Eno.472 ふるる  後日談~星に手を伸ばす商人~ - せせらぎの河原

一人の商人がコエクシスを訪れた。
王に謁見を求めると、びっくりするくらいあっさりとその謁見は叶った。

「来ると思っていました、ようこそコエクシスへ。
王のセイクレッドです」

商人はこの国の王女である娘が、あの場所で残していったものを渡すために謁見を申し込んだと伝える。
えぇ、わかっていますそんな返事が返ってきた。

王女の誕生石によく似た石で作られたチョーカー。
王がそれに触れる。

「ほんとに、仕方のない子ね……」

そのつぶやきは、王の言葉ではなく母親のそれだった。

「少し、失礼しますよ」

その言葉の後に脳内に映像が流れた。
あの王女の姿が、今もそこにいるようなそんな映像。

内緒のお茶会をした、あの部屋で。
あのテーブルで、唸りながらこのチョーカーを作っている姿。
ベッドで足をパタパタしながら、じっと自分の作ったチョーカーを見つめる姿。
たっぷりのカフェオレが入ったマグカップを横に何か話をしている姿。

声が聞こえる。

「チョーカーの意味、知ってるかな……あ、でもお花も知らなかったから知らないかも」
「子供からもらっても困るよね……私はなんで子供なんだろう」
「すごく優しいし、いい人だし……きっとすぐに恋人出来ちゃうよね」
「エノメナみたいに待っててくれたらいいのに……」
「あのエノメナの意味が、本当だったらいいのに……」
「すぐに大人になるから、待っててって言えたらいいのに……」
「……やっぱり、渡せない……」




「……いつか、大好きって……言えるかな……」

そんな想いが残っていた。

「これは、あなたがそのままお持ちください。
あの子に返すにしろ、受け取るにしろ、その時まで。
それと、ストラから預かっていたものもお返しします。
特殊な構造で面白いですね、その薔薇の宝石。

あの子達がお世話になったと、リコから聞いています。
コエクシスはあなたをいつでも歓迎します、あなたが何者であろうとも。

また、お越しください」

謁見が終わり、街中を歩いた。
これが、この国が少女の見ていた世界。
あの子が守りたいと願った世界。
あの子が……。


商人は冒険の新たな目的が出来た。
今はその場所がわからないけれど、確かに生きているとこのアイテムが示す。
その示しがある限り絶対に見つけ出すと。

そして、また、お砂糖たっぷりのカフェオレに、あのパンケーキを一緒に食べて。
こんなことがあったと話せるように。


(Eno445 アラビク様 Special Thanks!!)








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