Eno.102 亀有 千鶴  それから、それきり。 - せせらぎの河原

それから、孫と祖父はなんやかんやの方法で無事に帰宅できた。



(亀有宅にて)

「いない、いないっ、どこにも…
お、おおっ、置いてきてしまったのじゃ!!」
『一息つけたと思ったら、どうした…』
「かぶちゃんを置いてきてしまったのじゃあ!
「申し訳なさすぎる、早く今すぐ戻らねばぁぁ…」
『あぁ、ランドラ殿』

庭の方へ駆け出そうとした所で片腕を掴む。

『帰ってきたのにあの危ない島に戻る気か千鶴』
「じいじぃ…?」

『かぶちゃん人形は部屋にちゃんとあるじゃろう、お外には忘れとらんよ』

『さて久しぶりで忘れてしもうたか?洗面所はあっちじゃ。
帰ってきたらちゃんと綺麗にせねばな』
「ううっ、ん…?洗面所?」
「あぁ!うっかりしておった!」

1人はぱたぱたと小走りに、1人はのんびりと歩みを進める。



『手洗いうがいは終わったか?』
「終わったのじゃ!」
『んじゃあおやつにしようかのう。千鶴の好きなプリン、冷蔵庫にあるか一緒に見よう』
「見る〜!」


タコができて、浅い傷があって、少しだけ逞しくなった手で掴むスプーンはいつもより軽いが市販のプリンの味はとても深い。

「もひもぐ…
沢山沢山冒険したからのう、お家が懐かし〜く感じるのじゃ〜」
『そうじゃなあ。そういえばテントで寝るのは初めてだったかもしれん…』

『ほれ、お疲れさん』
『お勉強を頑張った分たまにはたーんとあげねばな。
今日は家庭教師、荷物が少しばかり多そうだったが?』

懐からいくつか飴玉と煎餅を取り出し机の上へ。

「?」
「良いのか!ありがとうじゃ、じいじ〜!』

嬉々としながら傷一つない小さな手はスプーンを皿に置きそれらの袋を開ける。

「ふふん、今回は小テスト付きの理科と…」

孫の得た知識を聞きながら一緒にのんびりお菓子を食べる。途中からお茶を用意してくれた妻も輪に入ってきた。

今日も平和な一日。
週末は息子達が暇を作って久々に千鶴へ会いに来るんだっけか。
その時は皆で少し遠出しよう。



夕飯前になり探していると、千鶴は儂が与えたことがない物を箪笥の中へしまっていた。
……貰い物は見逃すか。

空に浮かぶ島なんて知らないし、異世界に繋がることなんてありえないし、庭に倉は無いし。
話はそれきり。








<< 戻る