Eno.5 鳴神  とある書類 - たそがれの頂

約束の日は、もうすぐそこだ。

ルロキルが成人を迎える日。
二人で決められた運命に抗う日。

この書類は、己の思考と計画を整理するために書いたものである。


まずはじめに。
私が庭園を訪れる前、
長らく見守っていたのは『ヒトの想いがカタチになる街』

たとえば『猫になりたい』と強烈に願えば、
実際に身体のカタチが変化して猫になってしまったり。

人間の感情が無機物に宿り、魂を持って動き出したり。
欲望が具現化する、混沌の街。


これから実行しようとしているのは、
あの街の法則ごと・・・・一時的に引っ張ってきて、
ルロキルの願いを具現化してやろう、という計画だ。


ルロキルの持つ悩みと私の能力は、
幸いにして相性が良かったのかもしれない。

こんな時風神あいつなら、
瞬きひとつでくだらない運命ごと吹き飛ばしてやれるのだろうが……。

いかんせん私は頭が固い。
物事を強く信じ切るためには、最終的に理屈を必要とする。
なので今、こうして真剣に机に向かい文章を書いている。


次に、計画を実行するにあたって
現時点で思い浮かぶ問題点は3つ。

一つ、法則を街の外に引っ張る行い自体が、初めての試みだという事。

二つ、願いを具現化させる対象が、
私自身ではなくルロキル……つまり他者であること。

三つ、……【消しゴムでぐしゃぐしゃにして消した跡がある。】


一つ目に関しては、概ね成功するだろうとは思っている。
不安であれば、約束の前にこっそり一人で練習しておくのが良いかもしれない。

二つ目に関しても、
ルロキルと私の想いが通じ合っていれば問題無いとは思っているが……。
今の状態では、少しばかり『情報』が足りんのだ。

最も必要とする情報は、ルロキルが将来『何』になりたいと願うのか。
計画を実行する時点で、二人が同じイメージを脳内に想い描いている必要がある。

こればかりは直接本人に聞くしかないだろう。



現時点で整理すべき事柄は、すべて書き終えた。
あとは約束の日を待つだけだ。

何はともあれ、一番大切なのは『希望を信じる』事。
それは私もルロキルも変わらない。





安心してくれ。
何があっても、お前の笑顔を守ってみせよう。








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