Eno.45 ピエタ 一通目の手紙 - はじまりの場所
親愛なる君へ。
一枚の絵がある。
色鮮やかな肌も露わな女たち。立ち上がって、果実を手に取っている。
左手には、蒼白い顔をして佇む異教の神像。密林の彼方に、青空の下に広がる島影。
幼子は眠り、老人は物思いに沈みながらこちらを見ている。
タイトルはこうだ。
『我々はどこから来たのか。我々は何者か。我々はどこへ行くのか』
三つの問いのすべてに答えられる人はいない。
大抵は、一つか二つ。僕なんか一問目から怪しいくらいだ。
ともあれ”彼女”については、ここに答えの一端がある。
彼女に手紙を預けて託す。
我々の交流は実りあるものだった。知り得た限りのことをここに記そう。
上の連中には別の思惑がある様だが、構うものか。
僕らはみんな、多かれ少なかれ”彼女たち”に借りがあるんだから。
前置きはここまでだ。まずは自己紹介をさせてほしい。
僕の名前はD. E. クロンカイト。DIMで古生物学を教えている。
とうの昔に姿を消した生き物たちの専門家だ。彼らを探して、研究している。
次は結論。
彼女は
2億年前の大量絶滅を乗り越え、6550万年前の”99%の死”さえも乗り越えた。
K-Pg境界の向こう側に至り、今日この日まで生命を繋いだ、旧き竜たちの末裔だ。
さらなる力を求め、何億年もかけて強く、大きく進化を遂げていた。
中でも彼女という個体の存在は、この街の歴史に深いかかわりを持ってきた。
経緯はこうだ。
ある日突然、岩窟聖堂の封鎖エリアからデカいお嬢さんが飛び出してきた。
君も知っての通り、デカいツノとデカい翼とデカい尻尾を生やしているやつだ。
名前は”ピエタ”。宗教的な慈悲心を意味する言葉らしい。
彼女の身柄は教会の関係者に保護されたが、そもそも言葉がわからない。
ウチの先生が呼ばれて行って、1000年以上も前に使われていた古語だとわかった。
そこからがまた大変だったんだが……本題から外れる。割愛しよう。
ピエタと話してみて、そんな風には思えないとしたら、我々の苦労が報われたということだ。
一番の功労者はビアズリー先生と、彼女自身だ。ピエタも相当の努力をしていた。
おしゃべり好きな彼女のことだから、大して苦にはならなかったかもしれないがね。
意思の疎通ができるようになって、状況が一気に進んだ。実に得がたい僥倖だった。