Eno.435 トリサ  ⅩⅠ:『生存』について - せせらぎの河原

空藻も5つ集めた。
最近は暇つぶしに土を集めに各地を歩き回っている。

いつしか孤独がさほど怖くなくなった。
人の声が聞こえてこなくても平気になった。
知らない場所を歩くことにわくわくする。
どんくさくてできることはまだまだ少ないけれど、それでも自分なりに頑張れている……と、思う。



最近は河原でよく見かける子供が居て、何でもない挨拶をしたりお話をしたり。
時々やって来る人になんでもない話を持ち掛けたり。
穏やかな場所でのんびり楽しく過ごしている。


ここに来ている人たちは何となく何かを抱えている人が多い印象を受ける。
どこか遠慮がちだったり、踏み込めなかったり。
何かを悩んでいたり、立ち止まったままだったり。
それでもこの世界が悲しみばかりではない辺り、テラートの言う通り存外に世界は美しく優しいのだと思う。

ここにずっといるわけでもない。
私には帰る場所がある。

帰ったときに頑張ったと胸を張れるように。
今この時間の1つ1つを大事にしていきたいと思う。




―― この瞬間が、彼の人生で一番大切な現在だと感じた






―― 三つ首の番犬のようだと、いつか誰かが私たちを揶揄した。



ティカ
「さて。テラート様が死ぬべきだと定めた人間の元へとやってきましたがぁ~」

ティカ
「今回はお一人ではなく、5人もいるそうです。
 皆さん上手くやりましょうねぇ~」

ヘキサス
「ちっ、気持ち悪いリーダー面しやがって。てめぇこそヘマすんじゃねぇぞ」



月明りの下、標的の元へやってきた。
集団を相手することは流石に珍しかったが、それでも上手くやってきた。2人を見れば、失敗する恐れなど微塵にも感じていなかった。


トリサ
『―― 仮初の眠りへと誘う 山羊の呪いよ』



屋外から室内へ、深き眠りへと誘導する霧を送り込む。
魔術師に伝えられる広範囲を眠らせる術を、精神にではなく生命に働きかけるようにアレンジしたものだ。おかげで汎用性があり、あらゆる場面で役に立つ。


ヘキサス
「 」

               ―― 塔より雷が落ちて

トリサ
「 」

               ―― 死神の鎌で首を狩り

ティカ
「 」

               ―― 運命が流転すれば






ティカ
「人数が多かろうが、流石に一般人が相手では話になりませんね」

ヘキサス
「あ~あ、無様も無様だ。
 殺されたことにも気付かずに殺されたやつの間抜けなツラといったら!
 傑作だなぁオイ」



あっという間に、生命は死体となり果てる。
金品には目もくれない。ただ我らが慕う者が、人を救うために必要だから殺す。
私は殺すことに対する罪悪感はさほどなかった。初めて人に手をかけて、どうでもよくなってしまったのかもしれない。あるいは、どこかで人を許していないのかもしれないし、テラートの教えの前には心底些細な問題なのかもしれない。

ティカやヘキサスは、罪悪感どころか楽し気に人を殺す。流石に楽しい、とは私は思わなかった。ちょっとだけ優越感と愉悦感を抱いていたことは、ここだけの話にしておくが。


何よりも。私にとっての、喜びは。


テラート
「おかえりなさい! 今日もご苦労様。大丈夫だった?」

ティカ
「はい~ それはそれはもう気持ちよくお眠りになっていただきましたぁ~」

ヘキサス
「もっと悲鳴を聞きたいとこだけど、5人もいりゃ難しいからなぁ~
 キヒヒ、でもまあ、無様なツラを拝めて俺も満足だぜ」



教会に帰ってくると、テラートは必ず起きて私たちを待っている。
汚れ仕事をしてきたというのに、変わらずに私たちを抱きしめて、労ってくれる。


トリサ
「……ただいま」



この暖かさを甘受できるこの瞬間が。
私が最も、『生かされている』と実感するのだ。








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