Eno.259 カヴィア=エディブル  貧民街の少年 - あざやかな花園

────昔話をしようじゃないか。

なぁに、大丈夫。安心して。

この話に登場する誰が苦しもうがあなたには関係ないし、

誰が死のうがあなたには関係ない。

だから、ゆっくりと聞いてくれ。

…………俺の、最悪な昔話を。



これは、とある惑星に建国された、小さな王国の話。

王国の名は『静謐の国クレア・セグメント』。

水と緑に囲まれた小さな国で、王も国民も互いを信頼しあっていた。

荒れた他の国には見られないほど、平和な国家を築き上げていた。

あぁ、きっとその国は高潔で、快適な国だったろう。

……『国民』と呼ばれた、一部の上流階級にとっては。



静謐の国クレア・セグメントの国外にひっそりと存在する、小規模で、だからこそ残虐な貧民街スラム

常に血の臭いが充満し、腐肉がそこら中に転がっているような場所。

右隣の人は金目当ての人間に殺されて、左隣の人間は食料が無くて餓死するような場所。

そこは人呼んで『人間廃棄場ダーティ・トラッシュ』。


そんな劣悪な都市の端っこで、吐瀉物に塗れながら座り込んでいる子供が一人。

瘦せこけた顔に、無数の青痣。

茶色く汚れたボロ布を身にまとい、骨と皮だけのような身体を震わせていた。

???
「……お腹、減ったな」


そう呟き、顔に付いている黄色のドロついた何かを口に入れる。

眉を歪ませ、なるべく味わわないように、胃からくる熱い液体を無理やり押さえつけて、飲み込んだ。

ゴク、と喉の奥から嚥下音が鳴る。

──その瞬間。

小さな口の端から、ゴプッ、と赤色の液体があふれ出た。

???
がぁっ……ぐぁ、おえっ……


子供は痛みに耐えかね、地面に倒れこみ、身体を丸めた。

何度も咳き込み、何度も血を吐いた。

……貧民街スラムを歩く人々は、少年に見向きもしなかった。

それどころか、「邪魔だ」と怒鳴って蹴り飛ばす者も、口内に溜まった唾を吐きかける者もいた。

…………十数分経って、ようやく少年は起き上がった。

口元に付いている血を拭って、空を眺め──。

──そして、呟いた。

???
「……あぁ、お腹、減ったなぁ…………」









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