Eno.534 玲沙 龍のお話 鉄と毒と - たそがれの頂
最初の龍が討たれてからというもの、お山には人が多く集まるようになりました。
都の「竜殺し」の話が広まって、このお山に龍が沢山住んでいる事や、
その龍がとても簡単に斃せる事が遠くの街にも伝わってしまったのです。
最初の「竜殺し」のように、正面から斬りかかって来る者もいれば、
龍が無防備な時を狙う暗殺者のような者も現れました。
お山と里に棲む龍は勿論、里の人々も毎日が恐ろしくて仕方ありませんでした。
いつ襲われるか、誰に襲われるか、何も分からないのです。
龍たちも、本来は簡単に狩られてしまうほど弱くはありません。
しかし、龍たちは抵抗こそしましたが、向かってくる人間たちを返り討ちにすることはありませんでした。
龍たちはお山に移り住んだ時の「約束」を守り続けていたのです。
「決して人間に害を成さぬ事」。
それが龍の姿に怯えるばかりだった里の人々を勇気付けた、大切な約束でした。
里の人々を守りながら、約束を守りながら、龍たちは少しずつ姿を消していきました。
人に狩られるばかりでは嫌だと、お山を離れた龍もいました。
こうしてゆっくりと淘汰されていくのだろうと、誰もが思っていました。
しかし、人間達はそんなに待ってはくれませんでした。
人間達の王様がいる都から、鎧を纏った沢山の兵士たちがやってきました。
その先頭に立っていたのは、あの最初の「竜殺し」でした。
都の人間たちは、大して反撃してこない龍なんて怖くありません。
一気に狩り尽してやろうと考えたのです。
激しい戦いでした。
里の人々も、沢山巻き込まれました。
龍も、人も、沢山の血が流れました。
そんな中、遥か上空に逃げた龍もいました。
翠の龍と、その番の紅い龍でした。
二匹は龍たちの中でも、特に戦う事が苦手でした。
ですから、もしもの時はその背に乗せられるだけの人を乗せて、空に逃げなさいと云われていたのです。
二匹の龍は、地獄と化した里を見下ろして嘆きました。
どうして、どうして、と。
龍の背中に乗せられた人々も、龍と一緒に泣きました。
やめて、やめて、と。
二匹の龍は、せめてもの反撃にと、雨を降らせました。
雨は兵士たちの持ってきた火薬を湿らせ、大きな炎を消しました。
しかし、それだけでは兵士たちは止まりませんでした。
兵士たちは、毒の武器を使いました。
その毒はヒドラと呼ばれる大蛇のもので、とてつもなく強力なものでした。
ヒドラの毒を受けた龍たちは、皆苦しんで斃れていきました。
丈夫な鱗も、分厚い皮も、毒には耐えられませんでした。
やがて、生きている龍の方が少なくなった頃。
お山を、里を、大災害が襲いました。
その場所に訪れるはずだった嵐が、洪水が、地震が。
一気に発生しては、その場にいる者すべてを飲み込んでいきました。
兵士たちは知らなかったのです。
大量の水を溜めたダムを壊したら、大地を鎮めている楔を引き抜いたら、避雷針を折ったらどうなるのか。
それらの役目を担っていたのが、龍たちだったのです。
結局、里は家も人も押し流され、荒れ果てた廃村になってしまいました。
人は減り、龍はもっと減りました。
残された人と龍たちは、ただ嘆くばかりでした。
──この戦いで祖父と母が散り、祖母は毒で長く苦しむことになった。
都の「竜殺し」の話が広まって、このお山に龍が沢山住んでいる事や、
その龍がとても簡単に斃せる事が遠くの街にも伝わってしまったのです。
最初の「竜殺し」のように、正面から斬りかかって来る者もいれば、
龍が無防備な時を狙う暗殺者のような者も現れました。
お山と里に棲む龍は勿論、里の人々も毎日が恐ろしくて仕方ありませんでした。
いつ襲われるか、誰に襲われるか、何も分からないのです。
龍たちも、本来は簡単に狩られてしまうほど弱くはありません。
しかし、龍たちは抵抗こそしましたが、向かってくる人間たちを返り討ちにすることはありませんでした。
龍たちはお山に移り住んだ時の「約束」を守り続けていたのです。
「決して人間に害を成さぬ事」。
それが龍の姿に怯えるばかりだった里の人々を勇気付けた、大切な約束でした。
里の人々を守りながら、約束を守りながら、龍たちは少しずつ姿を消していきました。
人に狩られるばかりでは嫌だと、お山を離れた龍もいました。
こうしてゆっくりと淘汰されていくのだろうと、誰もが思っていました。
しかし、人間達はそんなに待ってはくれませんでした。
人間達の王様がいる都から、鎧を纏った沢山の兵士たちがやってきました。
その先頭に立っていたのは、あの最初の「竜殺し」でした。
都の人間たちは、大して反撃してこない龍なんて怖くありません。
一気に狩り尽してやろうと考えたのです。
激しい戦いでした。
里の人々も、沢山巻き込まれました。
龍も、人も、沢山の血が流れました。
そんな中、遥か上空に逃げた龍もいました。
翠の龍と、その番の紅い龍でした。
二匹は龍たちの中でも、特に戦う事が苦手でした。
ですから、もしもの時はその背に乗せられるだけの人を乗せて、空に逃げなさいと云われていたのです。
二匹の龍は、地獄と化した里を見下ろして嘆きました。
どうして、どうして、と。
龍の背中に乗せられた人々も、龍と一緒に泣きました。
やめて、やめて、と。
二匹の龍は、せめてもの反撃にと、雨を降らせました。
雨は兵士たちの持ってきた火薬を湿らせ、大きな炎を消しました。
しかし、それだけでは兵士たちは止まりませんでした。
兵士たちは、毒の武器を使いました。
その毒はヒドラと呼ばれる大蛇のもので、とてつもなく強力なものでした。
ヒドラの毒を受けた龍たちは、皆苦しんで斃れていきました。
丈夫な鱗も、分厚い皮も、毒には耐えられませんでした。
やがて、生きている龍の方が少なくなった頃。
お山を、里を、大災害が襲いました。
その場所に訪れるはずだった嵐が、洪水が、地震が。
一気に発生しては、その場にいる者すべてを飲み込んでいきました。
兵士たちは知らなかったのです。
大量の水を溜めたダムを壊したら、大地を鎮めている楔を引き抜いたら、避雷針を折ったらどうなるのか。
それらの役目を担っていたのが、龍たちだったのです。
結局、里は家も人も押し流され、荒れ果てた廃村になってしまいました。
人は減り、龍はもっと減りました。
残された人と龍たちは、ただ嘆くばかりでした。
──この戦いで祖父と母が散り、祖母は毒で長く苦しむことになった。