Eno.153 ヨギリ  料理の話 - せせらぎの河原




◆せせらぎの河原





ヨギリ
「………」





河原の前で小岩に座り、ぼんやりと水面を見つめる男がいる。



足元には籠がある。
その中には先ほど川で捕まえてみた魚、貝、エビなどの魚介類が何匹か入っていた。
これらは食材として料理に使用することが出来る……らしい。

調理品はこの島を探索する上で必要な場面が多い。
暫く探索に出掛ける場合は食べ物が無いと体力が持たないし、遠出するなら尚更になる。
美味しく調理された料理はそれだけでも活力が上がる。



ヨギリ
「……それは分かるんだけど、」

ヨギリ
「一体これをどうしたら一品もののお料理に……?」




分からない。致命的に分からない。
もうそのまま焼いてみる事くらいしか思い付かない。



調理工程を経た「料理」として仕上がった時、魚や貝やエビはすっかり調理後の姿を成しているわけで。
まだ生き物としてそのままの状態からどうすれば良いのか、見当も付かなかった。

イメージだけは何となく頭に浮かぶ。
食材を適切な大きさで切る事、調理用の下拵えをする事。調味料を正しい分量で使う事、加熱処理等を行う事。

……今の自分は多分、せいぜい食材を切る事くらいしか出来ない。



(料理が出来る人ってすごいな……)



思考を巡らせながらそう感じる。
料理は難しい。元々、自分は生活に関わる事がどうにも上手くできない。
もたもた時間が掛かるし度々なにか失敗する。






ヨギリ
「………」


ヨギリ
「……まあ、取りあえずやってみようかな」




揺蕩う水面を眺めたまま佇んでいた男はやがて腰を上げる。
折角捕まえた食材なのだし、下手なりに手を動かしてみる事にする。
自力でやってみない事には練習にも経験にもならないだろう。



ひとりでただ生きる為なら、安全に食べられさえすれば正直なところ調理はあまり気にしない。
でも手作りの料理は栄養価も高いし、何処か気持ちが安らぐ。
出来ないと死ぬ訳では無いけれど。少しでも出来る様になったら、いいことが増えると思う。



例えば……自分の為により良いものが食べられたら。
或いは誰かと一緒に料理をしたり、食事が出来たら。
そんな事が出来たらきっといい。



そう思いながら。
実際に手をつける前に一度、改めてレシピを確認する事も忘れない様にして。
まだ生きた魚が跳ねている籠を持ってシェルを操作した。







(この後、河原の魚はキャッチアンドリリースである事を知って川に帰した)








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