Eno.693 レヴァンダ  ■日記その② - ひかりの森

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メドゥーサの血を引く我々は、同胞意外と視線を合わせる事が出来ない。
もちろん、相手を石にしてしまうからだ。
これは魔法というよりは呪いに近く、解除する方法はなくはないが難解だ。

必要なのは血。そして術式。さらに、愛。
今の時代、なんでもかんでも人間によって解読されてしまう。
魔法も、化学や物理なんかも、全て式で可視化されつつある。
問題は、愛だ。
愛など、どう定義づけ、どう数値化するのだろう。


だから『無暗に他者の目を見ない』。
これは小さい頃からの教えだ。




物心つくまでは、皆目隠しをして過ごした。
誰も傷つけないように。


***





森の木陰で雨を避けながら、青年は1人、手記をしたためている。
時々うなりながら文章を考えてるようで、執筆は難航中だ。

レヴ
「まず何から書こうかな。この島に来た事、歩き回った事…」

レヴ
「うーん、変にこだわらないで書いた方が、ぽくていいかなぁ」


ペンをくるくると回しながら、落ち着かないように尻尾がゆらゆら揺れる。
雨の音が耳に響き、手記を湿らせる雨粒も落ちてくる。
集中できずに一度立ち上がると、座っていた場所を眺める。

レヴ
「…まずは樹木の根の力を借りる」


すると、木の根は不自然に盛りあがり、腰かけの代わりになった。

レヴ
「次に、雨避けを作る…」


すると、空気の玉のようなものが出来上がり、雨避けのテントが出来上がった。

レヴ
「後は、服の土を…あ、」


そう言えば、この島で出会った男性から、便利なスライムを買ったのだった。
空気の玉の中に入り、木の根に腰かけ…スライムの入るフラスコの蓋を開ける。
出て来たスライムを膝に乗せ、動向を観察。

レヴ
「汚れだけを食べるって、便利だなぁ」

レヴ
「そうだ、出会った人の事も描いて行こうかな?」


何か思いついたように、再び手記を開いて筆を執る。
すらすらと、さっきより遥に筆が早い。
スライムがゆっくりと這いまわる中、気にせず書き進められるだけの集中力はある。たぶん

しばらくして、雨の中遊んでいたランドラが帰って来る。
どうやらスライムも仕事を終えたようで、傍らのフラスコに半分収まってる。

レヴ
「お、いつの間に…」

レヴ
「おかえり、カロート。雨ではしゃぐなんて、君はやっぱ植物だね」

ランドラ
「ドラ~」


ランドラも空気の玉の中に入ってきて、執筆は中断される。
半身のでたスライムのフラスコを手に取り、眺め…

レヴ
「…そういえば、この子の代金って払いきったのかな」

レヴ
「お金じゃないもんなぁ……」


明確な答えが無い物は、やっぱり苦手だ。
また多少の不安が出て来て、尻尾が揺れる。
フラスコのキャップを閉めてやり、今度はランドラを抱きかかえて空を見る。
未だ振り続けてる雨を、ぼんやり眺めながら、ランドラの手を撫で…
あ、と唐突に声をあげる。

レヴ
「チェスとかでもいいんだった。」

レヴ
「調査が終わったら、また色々見て周ろうか。面白いものあるかな?」


ね、ラン太郎…。
ケロッと本調子に戻り、ランドラの両手で遊び始める。
大分呑気な性格だ。

雨が上がるまで、しばしの休憩。
 








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