Eno.1 椋 京介 はなのきもち - はじまりの場所
人はなぜ武器を手に取り戦うのだろうか。
自分の領土を守護せんと奮闘する者もいれば、
敵の領土を略奪せんと邁進する者もいる。
それはきっと、その人にしか分からないし、
それはきっと、色々なものを見た上で想像するしかないんだろう。
その花はなぜ棘をその身に宿しているのだろうか。
「守るために戦う」という意志があるのかもしれないし、
「奪うために戦う」という意志があるのかもしれない。
それはきっと、その花にしか分からないし、
それはきっと、色々なものを見た上で想像するしかないんだろう。

京介
「...サボン。」
「...サボン。」

京介
「何を見て、何を感じて、何を思っているんだろうか。
棘をその身に備え、それでも可憐に咲く君は。」
「何を見て、何を感じて、何を思っているんだろうか。
棘をその身に備え、それでも可憐に咲く君は。」

京介
「君はきっと、多くのものを奪い奪われ、
その上できっと、自分というものの形が決まっていったんだろうね。」
「君はきっと、多くのものを奪い奪われ、
その上できっと、自分というものの形が決まっていったんだろうね。」

京介
「それでも君の花は、自由に咲いているのだろうか。
もしくは、己の棘の檻の中で自由を望んだ末の姿なのか。」
「それでも君の花は、自由に咲いているのだろうか。
もしくは、己の棘の檻の中で自由を望んだ末の姿なのか。」

京介
「...誰とも争わず、戦わずに生きていけるものではない。
それでも僕は...」
「...誰とも争わず、戦わずに生きていけるものではない。
それでも僕は...」

京介
「それでも僕は........、君を棘の先まで想えるようになりたいな。」
「それでも僕は........、君を棘の先まで想えるようになりたいな。」
この世はきっと、思っているよりも醜くて、
この世はきっと、思っているよりも自由なのだろう。
Fno.4 サボン
「この子をナメちゃいけないよ!
見た目はころんとしてて可愛いけど、中身はもう……戦士そのものさ!」
そう言って胸を張るのは、砂漠の町で植物屋を営むカティナ。
彼女の棚には、大小さまざまなサボンがぎっしり並び、陽を浴びて元気に棘を光らせている。
サボンは乾ききった大地でもしっかり根を張り、少しの水と声かけだけでぐんぐん育つ。
その棘は、近づく者を軽々と退けるが、本当はとても温かい命を宿している。
「守るために戦う」という意思が、丸い茎の奥で燃えているのだ。
カティナ曰く、サボンは声をかけられると嬉しそうに棘をピンと立てるのだという。
その姿を見て「挑発してんのか?」と笑う旅人もいるが、彼女は首を振る。
「挑戦してるんだよ、自分より大きな世界にね!」
花言葉は「燃える心」。
それは炎のように相手を焼くためではなく、氷のような夜を越えるために燃やし続ける、小さな炎のことだ。
「育ててみなよ。いつの間にか、こっちまで元気にしてくれるんだから」
カティナはそう言って、手のひらほどのサボンを、そっと抱きしめるふりをしてみせた。
もちろん、棘に触れないように――戦士のプライドは傷つけないのが礼儀だ。