Eno.229 ゼユルア・アナヴァルド  むかしのおはなし - はじまりの場所

むかしむかし、あるところに不死者たちの住む国がありました。
そこを治める吸血鬼の王には2人の娘がおりました。
強い力と冷たい心を持つ姉ザユミアと、病弱で心優しい妹ゼユルアです。
2人はとても仲が良く、助け合いながら過ごしていました。
国に住む人々も可愛らしい2人を愛し、暖かく見守っていたのです。

けれどそれも長くは続きません。

ある日その王国へ1人の少年が迷い込みました。
ゼユルアはその少年と出会い「生きている人間を襲おうとする仲間もいるから」と、こっそり逃がそうとしたのです。

道すがら、ゼユルアと少年はお互いの住む世界や住民のことを話し仲良くなりました。
そしてゼユルアが吸血鬼という不思議な力を持つ種族だと知った少年は隙をついてゼユルアを襲ったのです。
ゼユルアは吸血鬼の持つ不思議な力だけでなく、その弱点も話していましたから。

ゼユルアは心臓を奪われ、身体に火をつけられました。
ゼユルアは苦しみ悲しみながら姉の元へと必死に戻ります。
炎に包まれながらも、たどり着いた姉ザユミアの元でゼユルアは事情を語り「彼を許してあげてほしい」と懇願して力尽きました。

人々は嘆き悲しみ、その身体を棺へと寝かせました。
姉のザユミアは妹の身体が朽ちることがないよう己の力でその周囲を凍らせて彼女を毎日見守ります。
それでもやはり、妹が目覚めることはありませんでした。

長い時の中で、心優しい妹を失った姉ザユミアは更に冷酷な王女へと成長していきました。
人々は冷淡なザユミアの振る舞いに国の行く末を案じます。
そしてついに父親である国王はザユミアへとある呪いをかけて国外へ追い出したのです。
彼女の強い力は奪われ、ザユミアは子どもの姿になってしまいました。
「ザユミアに対等な友人が出来るまで、その呪いは解けない」と王は告げました。
それでもザユミアはやはり自由気ままに国を出て冒険の旅へと出て行きました。

姉のザユミアが国から出てしばらくして。妹ゼユルアの周囲を守っていた氷は術の主を失い、溶けつつありました。
そしてその動かない肉体が朽ちようとしていく日々の中、信じられない出来事が起こりました。
ゼユルアはアンデッドとして目を覚ましたのです。
すっかり年月が経った世界の中で真っ先に案じたのは姉のザユミアのこと。
姉が呪いをかけられ国を出て行ったことを知ったゼユルアは父を責めました。
それでも父親は姉の呪いを解くつもりはないと言い、そしてゼユルアにもこう言い聞かせます。
「今の冷たいザユミアがこの国を守る王になるのは難しい。
だから生き返ったお前が強くなりなさい。そしてこの国を守ってほしい」

ゼユルアもまた外の世界で友人を作るように、と告げられ国を出ました。それに異論はありませんでした。
彼女もずっと外の世界に憧れていましたから。
もしかすると姉に再会できるかもしれない。
姉も妹のゼユルアがアンデッドになって蘇ったことを知れば、昔のように少しは優しい心を取り戻してくれるかもしれない。
そんな期待も抱きつつ、ゼユルアは旅に出たのです。








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