Eno.101 ピーピャ・メルシア 『白百合の悪魔憑き Ⅰ』 - はじまりの場所

「おい! いたぞ、あいつらだ!」

「生かして返すな! ぶっ殺せ!
俺達を終わらせたあいつらに報いを!」

ピーピャ
「はっ、終わらせたなんて人聞きの悪い」
「はっ、終わらせたなんて人聞きの悪い」

ピーピャ
「私は真実を見つけ出して、それを公にしただけ。
それで終わるようなことをしていたあなたたちが世界の悪だった、
ということでしょう?」
「私は真実を見つけ出して、それを公にしただけ。
それで終わるようなことをしていたあなたたちが世界の悪だった、
ということでしょう?」
深夜、街外れにて響く喧噪。武器を持った人間が姉貴を追い詰めていた。
数十人からの殺意を向けられても、白ユリを纏った黒は堂々としていた。
得物の金色のジョウロを携えて、口笛を一つ、吹く。
それは、隠れて様子を伺っていた俺を呼ぶ合図だった。

ピーピャ
「おいで、ルーク。ここでなら存分に暴れていいわよ」
「おいで、ルーク。ここでなら存分に暴れていいわよ」

ルーク
「ったく、姉貴は相変わらず詰めが甘ぇんだよ!」
「ったく、姉貴は相変わらず詰めが甘ぇんだよ!」

ピーピャ
「しょうがないじゃない。
暴いてから買っちゃった恨みはどうしようもないわ」
「しょうがないじゃない。
暴いてから買っちゃった恨みはどうしようもないわ」

ルーク
「そこで恨みを買わずに隠ぺいしきるって発想はねぇわけ?」
「そこで恨みを買わずに隠ぺいしきるって発想はねぇわけ?」

ピーピャ
「ないわよ。だって真実や真理こそが善だもの。
偉いわよね、あの人たち。
ちゃんと私にたどり着いたわよ。尊ぶべきだわ」
「ないわよ。だって真実や真理こそが善だもの。
偉いわよね、あの人たち。
ちゃんと私にたどり着いたわよ。尊ぶべきだわ」

ルーク
「その結果俺が迷惑被ってんだよなァ!!」
「その結果俺が迷惑被ってんだよなァ!!」

「ごちゃごちゃうるせぇぞてめぇら!!」
本当にそう。その通りすぎる。
街外れに自分の敵となる女が居たと思ったら、
援軍に一人の男を呼んできて謎のやりとりが始まったとなればそうもなる。
全面的に目の前の人間たちが正しい。

ピーピャ
「私に到達できるだけの実力はあるのに、
如何せん知性と品がないわね」
「私に到達できるだけの実力はあるのに、
如何せん知性と品がないわね」

ルーク
「マジでめちゃくちゃ煽ってっけど、
一人だと相手しきれねぇってことは自覚してくれよな……」
「マジでめちゃくちゃ煽ってっけど、
一人だと相手しきれねぇってことは自覚してくれよな……」

ピーピャ
「しているからルークを呼んだんじゃない。
今夜も頼りにしてるわよ」
「しているからルークを呼んだんじゃない。
今夜も頼りにしてるわよ」

ルーク
「あのさあ」
「あのさあ」

「調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

「てめぇマジで何様のつもりだ!
この人数で勝てるとでも思ってんのか!?」
挑発(のつもりは多分ない)に案の定彼らは乗った。分かりやすく乗った。
そうして怒号を合図に、戦いの火ぶたが落とされた。
追い詰められたというのに飄々と肩を竦める姉貴。
相手にとって、それはそれは気に入らないことだろう。
最も、こちらは追い詰められたのではなく、ここで待ち伏せしていたわけだが。

ピーピャ
「言われてるわよ、ルーク」
「言われてるわよ、ルーク」

ルーク
「凡そ姉貴のせいなんだけど、まぁ――」
「凡そ姉貴のせいなんだけど、まぁ――」

ルーク
「せいぜい殺さねぇよーに気ィ付けてぶちのめしてやるぜ!」
「せいぜい殺さねぇよーに気ィ付けてぶちのめしてやるぜ!」
俺の姉貴の話をしよう。
俺の姉貴は、いつだってどこだって『真理』こそが全てで善だと考える人だ。
その軸がブレることはなく、真理のために真実を暴く姿勢は正義や善行とはとても言えなかった。
傍若無人に真理を追究する在り方から、彼女を知る者からは暴虐だと恐れられ、
あらゆる噂や憶測が飛び交うようになった。
そうして、とある二つ名が定着し。

ピーピャ
「この痩せこけた地に、種を植えて水をやりましょう」
「この痩せこけた地に、種を植えて水をやりましょう」

ピーピャ
「―― さあ、ルーク。狩りの時間よ」
「―― さあ、ルーク。狩りの時間よ」
白百合の悪魔憑き、と呼ばれるようになった。