Eno.115 マイフ=ハイライト  内部対談記録【対象01】 - はじまりの場所

記録責任者:マイフ=ハイライト(副隊長)
対象個体:オブルス=アーク=パラダイス(隊員)
実施日時:構造変異初期段階:第14次観測周期・フェーズ02
場所:対象個体の自室



■ 状況背景
対象個体に対し、表世界個体との統合意思を確認するため入室。対象は入室直後から強い拒絶反応を示し、非論理的な仮説に基づく【離脱】の可能性を主張した。

■ 室内状況
対象個体の自室は、支給された家具以外に個人の嗜好品や装飾が一切存在せず、極めて空虚な状態にある。この世界に対する愛着や、存在を繋ぎ止めるための生活の痕跡が著しく欠如していることが確認された。



■ 対談ログ

 [入室時、対象は椅子に深く腰掛け、眉間に深い皺を寄せた。私の存在を視界に入れた瞬間、隠そうともしない不快な色がその貌に浮かぶ]

マイフ:「その顔をやめろ。私は規律に基づき、表世界の『貴公』との統合意思を確認しに来ただけだ。回答しろ。正規の統合プロセスに移行するか」

オブルス:「またそれれすか。副長、本当にしつこいすすねえ。統合なんてするつもりないって、何回も何回も言ってるはずれすけど?」

マイフ:「拒否は自由だが、代替案のない拒絶はただの自壊だ。統合を拒否し、裏個体が表と裏を行き来することは、小隊の演算資源の浪費につながる」

オブルス:「代替案なら、ありますすよ。向こうの自分と入れ替わるっていうやつのす。……あっちの自分は、もう生きてるのが嫌みたいれすから。隊長もオッケーって言ってたし」

マイフ:「個体殺害による簒奪か。不確定要素が多すぎる。なぜそこまでその手法に固執する」

【注釈:個体殺害による存在簒奪】  正規の存在統合プロセスとは異なる、非公式かつ極めてリスクの高い表世界への移譲手法。裏世界の個体が表世界へ物理的に侵入し、自身の表世界個体を殺害することで、その存在定義(社会的位置付け、身体的座標、および周囲の認識)を強引に上書きし、入れ替わることを指す。

  【特性とリスク】
  確実性:軍の演算上は未証明だが、対象(オブルス)は合意に基づく簒奪であれば確実に入れ替われると主張している。
  倫理的・軍規的側面:正規手順を逸脱した個体廃棄に該当し、通常は即座に棄却されるべき事案である。

  特記事項:表世界個体が自らの存在維持を放棄し、裏世界個体への譲渡を望んでいるという特殊な合意形成が(隊長を介して)なされている点が、本件の特異性を高めている。

オブルス:「あっちには、俺の好きな人がいるんれす。そのためなら、手段なんて選んでられないれすよ。それに、俺のことは俺がどうにかするから、いいんれす。副長が首を突っ込むことじゃないれしょうし。プラムックだって、あんたが首を突っ込んだせいで……

オブルス:「あーもう!首ばっか言わせるの止めて欲しいれす!」

マイフ:「貴公の発言は貴公の判断によるものだ。その件に関しては、既に直属指揮官へ引継ぎ済みだ。……現在の彼は、任務待機状態にある」

オブルス:「最悪な引継ぎのすねえ。なんとか拭いって言うんれすよそれ。……で、副長はどうするんれすか?」

 注釈:『尻ぬぐい』だと思われる。

マイフ:「俺か」

 予期せぬ個人的な問いに対し、一瞬、思考回路にノイズが走る。 対象は自身の頬に刻まれた模様を、まるで汚れでも拭い去ろうとするかのように、指先で執拗になぞりながらこちらを見据えていた。

 私はこの対話を公務から個人的な対談へと、内部プロセスの優先順位を一時的に変更した。それに伴い、発声プロトコルの制約を緩和する。

マイフ:「俺は、隊長から死ねとも消えろとも言われていない。命令がない以上、ここに居座るしかないだろう。次の指示が届くまで、この停滞を『無期限の継続待機任務』として、ただこなすだけだ」

オブルス:「え、ええ~……」

 [対象は呆れたように口を開け、数秒間、沈黙した]

オブルス:「いあ、いあ……。副長なら、耐えれるのかもれすけど……」

 対象はそれ以上言葉が見つからないのか、泳ぐ視線を彷徨わせ、ただただ狼狽し続けていた。これ以上の対話は無益と判断し、私はそのまま退室した。



■ 記録責任者による私見

対象個体は『非正規手順による離脱』という極めてリスクの高い逃避行に縋っている。それは彼なりの生存本能かもしれないが、同時にこの世界からの絶望的な切り離しを意味している。
一方、私個人に関する事項として記録する。
感情や意味を排し、任務という枠組みとして定義するのであれば、この終わりのない停滞と待機は、論理的に遂行可能な範疇である。命令受領の瞬間まで自己を維持し続ける。それが、現在の私に課せられた唯一の規律である。

補足:対象の動機に関する考察「好きな人がいるから、あっち(表)へ行く」
オブルスが口にしたその理由は、兵士の行動原理としては極めて稚拙であり、かつ不安定な変数と言わざるを得ない。
そもそも、個人の感情を依り代にした存在定義の移動など、演算上のリスクが大きすぎる。本来であれば非論理的な妄想として即座に棄却すべき事案だ。だが、皮肉なことに、今の彼をこの世界に繋ぎ止めているのは、その稚拙な執着だけなのも事実だろう。
……。
否定はしない。



アーク兄弟騒乱イバラシティ
ENo.380 アーク兄弟



左枠:オブルス(裏個体)フレシ(裏個体)

右枠:フレシ(表個体)オブルス(表個体)








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