Eno.458 リシェル・ヴァイスハウプト 壊れた無線機 - はじまりの場所
深夜。山の頂に近い稜線にて。
僅かに吹き上げる風が雲を裂くように冷たく流れている。
本来なら調査は1か月半ほどで終え、今頃はとっくに帰国しているはずだった。
だが、島の管理者側の事情で全域探査の許可が下りず、任務は足止めを食らったまま延びている。
9月に本国で大規模地震が発生したことは最後の通信で把握している。
任務を完遂していない以上、こちらから軽々しく連絡を入れるべきではない。
……そう判断して、これまで通信を控えてきた。
それでも数か月の沈黙が続くうちに、胸の奥に残るものを無視しきれなくなっていた。
鞄を開き、小型の無線機を取り出す。
指先で電源に触れ、起動を待つ……が。
何も反応がない。
もう一度、確かめるように電源を押す。沈黙。
機器を持ち上げ月明かりにかざした瞬間、表面を走る細かな罅に気づいた。
喉がひくりと鳴る。
自分は魔導工学の研究員だ。本国であれば即座に分解して修理できる。
しかしここはストロールグリーン島。必要な工具も部品も手元にはない。
島で重ねてきた幾度もの戦闘が、知らぬ間に決定的な損傷を与えていたのだろう。
血の気がスッと引いていく。
視界が僅かに滲み、目の奥が熱を帯びた。
半ば自分に言い聞かせるように無線機を握り直し、PTTボタンを押したまま口を開く。
返答はない。
砂嵐のノイズすら機器は返さなかった。
無線機を握りしめたまま、その場に立ち尽くす。
焦りは隠しきれず、山頂付近を吹き抜ける風が白衣の裾と淡銀の髪を冷たく叩く。
そこには夜の闇だけが、何事もなかったかのように静かに広がっていた。
僅かに吹き上げる風が雲を裂くように冷たく流れている。

リシェル
「……私がここに来て、そろそろ5か月か。
本国と最後に通信したのは9月の上旬だったな」
「……私がここに来て、そろそろ5か月か。
本国と最後に通信したのは9月の上旬だったな」
本来なら調査は1か月半ほどで終え、今頃はとっくに帰国しているはずだった。
だが、島の管理者側の事情で全域探査の許可が下りず、任務は足止めを食らったまま延びている。
9月に本国で大規模地震が発生したことは最後の通信で把握している。
任務を完遂していない以上、こちらから軽々しく連絡を入れるべきではない。
……そう判断して、これまで通信を控えてきた。
それでも数か月の沈黙が続くうちに、胸の奥に残るものを無視しきれなくなっていた。
鞄を開き、小型の無線機を取り出す。
指先で電源に触れ、起動を待つ……が。

リシェル
「……ん?」
「……ん?」
何も反応がない。
もう一度、確かめるように電源を押す。沈黙。
機器を持ち上げ月明かりにかざした瞬間、表面を走る細かな罅に気づいた。

リシェル
「まさか、壊れてる?」
「まさか、壊れてる?」
喉がひくりと鳴る。
自分は魔導工学の研究員だ。本国であれば即座に分解して修理できる。
しかしここはストロールグリーン島。必要な工具も部品も手元にはない。
島で重ねてきた幾度もの戦闘が、知らぬ間に決定的な損傷を与えていたのだろう。
血の気がスッと引いていく。
視界が僅かに滲み、目の奥が熱を帯びた。

リシェル
「落ち着け。まだ……試してはいない」
「落ち着け。まだ……試してはいない」
半ば自分に言い聞かせるように無線機を握り直し、PTTボタンを押したまま口を開く。

リシェル
「管制室、管制室。
こちらLEHTPU64、LEHTPU64。受信確認せよ、どうぞ」
「管制室、管制室。
こちらLEHTPU64、LEHTPU64。受信確認せよ、どうぞ」
返答はない。
砂嵐のノイズすら機器は返さなかった。

リシェル
「…………」
「…………」
無線機を握りしめたまま、その場に立ち尽くす。
焦りは隠しきれず、山頂付近を吹き抜ける風が白衣の裾と淡銀の髪を冷たく叩く。
そこには夜の闇だけが、何事もなかったかのように静かに広がっていた。