Eno.386 福平 双汰 2 - はじまりの場所
人並みに愛されてきた方だとは思う。たぶん。
ただ、それが他の人と見てどうなのかって、比べることがなかっただけで。
『こんなコトもできないでどうするの』
そういうことばかり言われて育ってきた、ような気がする。
実際どうなのか、となると……まあ、よくわからない。あまり憶えてない。
世間的には薄情とか、そういう見方をされるんだろうけど、良くも悪くも記憶にない。
知らない人にはついて行かない。変な人には話しかけない。危ない時は防犯ブザーを鳴らす。
遊び半分で帰り道に警報を鳴らす同級生と比べたら、そういうことはやらず静かに帰っていたと思う。
子供心に、不思議には思っていた。ああいう事をしたら怒られるってわかんないのかな、とか。……腹が痛い。
国語と体育が苦手だった。家庭科の鼈甲飴がおいしかった。プールを使う日はいつも保健室で寝てた。
理科の消毒液は臭くて好きじゃない。歴史で博物館に出かけた時は嬉しかった。数学で答えを言わされるのが嫌だった。
みんな違ってみんな良い、と言う大人が一番、みんなが違うことを理解しているようには見えなかった。
いや、そもそも、大人というものが全部そうだと、あの頃から解っていてしまったのか。
それよりもっと前でもいいぐらい。
人が如何に欺瞞で、狡猾で、虚飾だけを見ているのか。誰とも目が合わないのか。
それはたぶん、誰もが俺と同じ目線に、土俵に立てていないからだ。
そして、それが叶うことはこれからもないのだろう。他の誰にも、どこの誰でも。
なんでもない。俺はただ何もないものになりたかったんだ。
何かを手にしていたくはなかったんだ。そうなってしまいたかった。
出来やしないと分かっているのに。何回目の花が咲く。種が割れて中身が漏れる。
ああ。壊れてしまいたかった。失くしたかった。ああ、ああ、ああ。どうせ。
ただ、それが他の人と見てどうなのかって、比べることがなかっただけで。
『こんなコトもできないでどうするの』

双汰
「……、…………」
「……、…………」
そういうことばかり言われて育ってきた、ような気がする。
実際どうなのか、となると……まあ、よくわからない。あまり憶えてない。
世間的には薄情とか、そういう見方をされるんだろうけど、良くも悪くも記憶にない。
知らない人にはついて行かない。変な人には話しかけない。危ない時は防犯ブザーを鳴らす。
遊び半分で帰り道に警報を鳴らす同級生と比べたら、そういうことはやらず静かに帰っていたと思う。
子供心に、不思議には思っていた。ああいう事をしたら怒られるってわかんないのかな、とか。……腹が痛い。

双汰
「……はあ」
「……はあ」
国語と体育が苦手だった。家庭科の鼈甲飴がおいしかった。プールを使う日はいつも保健室で寝てた。
理科の消毒液は臭くて好きじゃない。歴史で博物館に出かけた時は嬉しかった。数学で答えを言わされるのが嫌だった。
みんな違ってみんな良い、と言う大人が一番、みんなが違うことを理解しているようには見えなかった。
いや、そもそも、大人というものが全部そうだと、あの頃から解っていてしまったのか。

双汰
「あの頃に戻りたいな……」
「あの頃に戻りたいな……」
それよりもっと前でもいいぐらい。
……息が苦しい。
きっと誰もが俺を普通だというけど、誰も俺をそうではないと見てはくれないんだ。人が如何に欺瞞で、狡猾で、虚飾だけを見ているのか。誰とも目が合わないのか。
それはたぶん、誰もが俺と同じ目線に、土俵に立てていないからだ。
そして、それが叶うことはこれからもないのだろう。他の誰にも、どこの誰でも。
なんでもない。俺はただ何もないものになりたかったんだ。
何かを手にしていたくはなかったんだ。そうなってしまいたかった。
出来やしないと分かっているのに。何回目の花が咲く。種が割れて中身が漏れる。
ああ。壊れてしまいたかった。失くしたかった。ああ、ああ、ああ。どうせ。