Eno.52 LReaper  再生②:等しき酔いと憂いの逢瀬に - はじまりの場所

どこか浮き足立つクリスマスの日。
上機嫌な藤紫の女と、それを先導するセーラー服の少年が、庭園の整備された道を歩いている。

マイト
「ねえ、クレフ?」

V=サイン
「……オレのことは『サイン』と。」

マイト
「いいじゃない、間違っている訳じゃないでしょう!」

V=サイン
「そのクレフが沢山いるから問題なんだ……」


はるか昔に、散り散りになったひとつの家族。
父、アスター。母、マイト。息子、クレフィオルト。娘、クリスフィア。
その4人……クレフィオルトは諸事情で増殖しているので、4人ではないのだが……
ともあれ、家族が、ようやく再会しようとしている。
数多くの苦難と、永遠のような時間を超え、ようやく願いが叶うのだ。

マイト
「あなたは甘い粒じゃだめ甘えてくれないの?」

V=サイン
「だめだ。他の、母上に会えていない数多くのクレフィオルトに対して不公平になる。」

マイト
「むー……」

マイト
「……えいっ!」

V=サイン
「なっ……!?」


警戒して身を強ばらせるサイン、それより先にサインを抱き上げて抱きしめるマイト。

マイト
「ぎゅ〜〜っ♪」

V=サイン
「むぐ……もが……っ」


マイトの豊満な胸に窒息させられるサイン。

V=サイン
「……ぶは!っ……」

マイト
淡い視界の外だから、秘密は何も覗かない他のクレフが見ていないから、秘密にしておけばいい。いいでしょう?」

V=サイン
「……そうだな、母上は昔からいつも勝手だ……」






ゲートポートの脇の森、を抜けた先の開けた場所に、船が停泊している。
異世界渡航船、探査船『白矢印』。
その前に三人分の人影。少年と、少女と、青年と。

V=マップ
「……ああ、来たな。」

クリスフィア
「かあさま……」

V=トレイター
「……!!」

マイト
「あなたたち……!」


しばしの間見つめ合い、女と少女は互いに向かって駆け出した。
胸に飛び込む少女を半ば抱え上げるように、強く抱きしめる。

クリスフィア
「かあさま、会いたかった、やっと会えた、かあさま……!」

マイト
「クリスフィア……こんなに綺麗になって……!」

クリスフィア
「クレフも、わたしも、がんばりました、いっぱいがんばりました!これでやっと、みんな……!」


少女の後を追うように歩いて、近づいてくる青年。
少女を一度下ろして、青年と向き直る。

マイト
「あなたが、不幸を終わらせたのよね?
 本当に、大きくなって……」

V=トレイター
「……うん……」


抱擁を交わす。すっかりあたしの背丈を超えてしまったな、って、撫でながら。

V=トレイター
「……ここまで見つけられなくて、ごめん……」

マイト
「いいのよ、今ここで交わしているんだもの!」


ひとしきり母子の再会を喜んで、落ち着いた頃に少年が話しかける。

V=マップ
「よう、母さん!会えて嬉しいぜ。
 父さんは船の中にi」

マイト
「えい!」

担ぎ上げられるマップ。
マイト
「中にいるのね、行くわよ!」

V=マップ
「ちょ、待っ、ウワーー!!」

クリスフィア
「ふふ、やっぱりかあさまはかあさまだな!」

V=トレイター
「大丈夫かな……」

V=サイン
「……やれやれ……」






V=マップ
「ストップ、母さん、ストップ!マジで止まって!!」


ようやく止まるマイト。そういえば船内のどこにいるかも知らないのだ。

V=マップ
「父さんに会う前に、これ飲んでくれ。」

マイト
「これは……?」

V=マップ
「耐火・耐熱のポーション。ほら、父さん、感情の大きさで燃え上がる体質になっちゃったからさ……母さんに会えたら、感動しすぎて火だるまになっちゃうだろうから。」

マイト
「そうね、気をつけるわ。」

V=マップ
「部屋は頑張って燃えないようになってるから……でも熱かったら離れてくれよ!」

マイト
「ふふ、平気よ!ありがとうね♪」


改めてムギュムギュに抱きしめられるマップ。窒息。

V=マップ
「も゛……」






特別に用意された船室。特別な扉。三人目の少年はそこで待っていた。

V=アーク
「会いたかったよ、お母さん。」

マイト
「あたしも!ずっと会いたかったわ!」


何度目かの熱烈なハグ!窒息!
V=アーク
「スウッ……」

V=アーク
「(いい匂いだ……もうずっとこれでもいいな……)」



V=アーク
「気を取り直して。
 お父さんはこの中にいるよ。ポーションはちゃんと飲んだ?」

マイト
「ええ、どんな熱源でも大丈夫!それに、お父さんだもの!」

V=アーク
「ふふ、そっか。じゃあ、中に。」






扉が閉められる。既に部屋はとても暖かかった。
調度品や家具が排除された、何も無い部屋。燃えないように、だろう。
そこに、人影。子供達にも遺伝した、オレンジ系の髪と側頭部の跳ね。

アスター
「ずっと、考えていたんです。
 いっそ、私のことなど忘れて、幸せになってくれはしないかと。
 真にあなたの幸せを願うのであれば、それが一番良いのだろうと。」

アスター
「それなのに、私は。」


黒いコートを翻して振り返る。

アスター
「その考えが、嫌で仕方なかった。
 私の犯した罪の報いに、あなたたちを巻き込んでおきながら、
 それでもあなたたちが私のものでないと、
 私のそばに居てくれないと、気が済まなかった。
 あなたたちの幸福に私が居ないなんて、耐えられなかった。」

アスター
「願いが叶ってしまった。
 私が願わなければ。あなたがそんな姿になるまで苦しんで傷ついてまで歩き続ける必要はなかったはずだ。
 ……どうかこの、愚かで強欲な男を、私を叱ってください。」


眼帯の内側から、口の端から、赤い炎が漏れる。男の瞳と同じ、赤銅色の炎。部屋の気温が上がっていく。

マイト
「……もう、仕方ないわね。」


熱気を気にも留めず、近づいて、頬を撫でて涙を拭う。
努めて、言葉を選ぶ。時間をかけてでも、伝わるように。

マイト
「あなたは悪くないわ。だって、あたしが願ったことだもの。何を払ってでもあなたたちに会いたいって、あたしの意思でしてきたこと。後悔はないわ。」

マイト
「だから泣かないで、かわいいあなた。」

アスター
「……マイト……」

マイト
「考えすぎてしまうのよね。だけど安心して。
 もう離れない、そうでしょう?」

マイト
「愛してるわ、あたしの一番星。」






アウトサイダー
「ああ、素晴らしい……君たちの苦難の道の果てが、ようやく実ったんだ。」


はるか遠くの世界、劇場で、再会する家族を見ているアウトサイダー。
スクリーンには、歓喜の炎の中でキスをする夫婦が映っている。
それにしてもすごい熱量である。これが火力発電なら何世帯賄えるのだろう、とか、どうでもいい想像をした。

アウトサイダー
「慄けよ演奏者Player。彼女は貴様の奏でた運命に縛られないだけの力を手に入れた。いずれ貴様のお立ち台にも、彼女の鎌がかかるだろうさ。」

アウトサイダー
「ああ、本当に素晴らしい日だ!赤い血が繋ぐ家族愛に乾杯!」


グラスを掲げる。小さな閉ざされた世界に、哄笑がこだました。





ああ、最高のクリスマスプレゼントだわ!
思えば、ここまで本当に長かったわ。もはや何を失ったかも覚えてない。
けれど、あたしは確かに、取り戻したのよ!
あたしの一番星、あたしの幸せたち、何を払っても足りないあたしの一番の輝き!

もう手放さないわ。誰にも奪わせない。たとえ相手が誰だって!
何を消費しても、何を踏み潰してでも、何を犠牲にしてでも、あたしがこの子たちを守るんだから。
そうして、いつか、あたしたちを悲劇に貶めた存在を殺しに行きましょう。

ねえ、これからずっと幸せでいましょうね!
愛してるわ、何があっても、永遠に!








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