Eno.101 ピーピャ・メルシア 『白百合の悪魔憑き Ⅱ』 - はじまりの場所

「おい、頭に白いユリの花をつけてるあいつ、
もしかして白百合の悪魔憑きじゃね……?」

「こないだフェーラ家が麻薬の取引で儲けてるって暴いて壊滅させた……」

「知ってる知ってる! この辺で有名な貴族だったあのフェーラ家!
あれを敵に回すだけでも恐ろしいっていうのに……」

「勇敢を通り越して野蛮なんだよなあ、あいつ……
俺は巻き込まれたくねぇからぜってー関わんねぇぞ」

ピーピャ
「…………」
「…………」
俺と姉貴は冒険者をやっている。
6人パーティを組んでいて、揃いも揃って癖のあるやつの集団で依頼を受けて生活をしている。
その一方で、6人揃って依頼を受けることもさほど多くはなく、姉貴と2人で行動していることの方が多かった。
群れることに苦手意識がある一方で、群れなければ生きていけないことを理解している。
冒険者はパーティ内で仲間意識が強いが、それを煩わしく思う人間だっている。
そうして自然と集まったのが、俺達だ。

ピーピャ
「今日も私たちに向けられる視線は冷たいわねぇ」
「今日も私たちに向けられる視線は冷たいわねぇ」

ルーク
「それを楽しそ~に眺める姉貴もどーかと思うぜ俺ァ」
「それを楽しそ~に眺める姉貴もどーかと思うぜ俺ァ」

ピーピャ
「あら、嘘の愛想笑いされるよりもずっと気持ちがいいじゃない」
「あら、嘘の愛想笑いされるよりもずっと気持ちがいいじゃない」

ルーク
「そーゆー発想になんのも流石だぜ」
「そーゆー発想になんのも流石だぜ」
姉貴が酒の入ったグラスを揺らし、カランと氷とグラスがぶつかる音がする。
周囲の噂話を耳に傾けながら、涼しい顔でそれを飲み干した。

ピーピャ
「でも困ったわね。悪魔憑きの風評被害はどうにかしたいわ」
「でも困ったわね。悪魔憑きの風評被害はどうにかしたいわ」

ルーク
「因みに姉貴が悪魔憑き扱いのせいで俺が悪魔扱いされてんだぜ」
「因みに姉貴が悪魔憑き扱いのせいで俺が悪魔扱いされてんだぜ」

ピーピャ
「ただのでっかい人間なのにね」
「ただのでっかい人間なのにね」

ルーク
「姉貴がちっちぇ人間ってのもあってな~」
「姉貴がちっちぇ人間ってのもあってな~」
血の繋がった姉弟だというのに、姉貴は随分と小柄で、俺は随分と大柄に成長した。
150センチすら届かない姉に対して、2mを超える俺が並べば最早少女と魔物である。
因みに姉の言う『困る』は、ありのままの真実を振る舞いたいのに周囲が勝手に事実を歪めてくることである。
追及するところも苦心するところもおかしい。

ルーク
「で、一番言われてんのは『身長を対価にしている』なんだよな」
「で、一番言われてんのは『身長を対価にしている』なんだよな」

ピーピャ
「それ本当に腹立つわよ。生まれつきこの身長だというのに」
「それ本当に腹立つわよ。生まれつきこの身長だというのに」

ルーク
「その言い方だと
生まれてから1センチも背ェ変わってねェよーに聞こえんな」
「その言い方だと
生まれてから1センチも背ェ変わってねェよーに聞こえんな」

ピーピャ
「あーあ、どっかに都合のいい悪魔とか転がっていないかしら」
「あーあ、どっかに都合のいい悪魔とか転がっていないかしら」

ルーク
「噂にこっちから歩み寄ろうとすんなよ」
「噂にこっちから歩み寄ろうとすんなよ」
……と、冗談に語るけれど。
姉貴は結構本気で、悪魔との契約には興味を持っていた。
興味、の段階で留まっていたから自ら率先して契約する術を探そうとはしていなかった、けれど。
目の前に現れて、契約を持ち出されたら応じてしまいそうな気は……

ルーク
「……悪魔がこき使われてグロッキーになる未来が見えんな。悪魔逃げて」
「……悪魔がこき使われてグロッキーになる未来が見えんな。悪魔逃げて」

ピーピャ
「いきなり何???」
「いきなり何???」
悪魔の末路の方が心配になっちゃったな。