Eno.458 リシェル・ヴァイスハウプト  山道の天然温泉にて - はじまりの場所

蒸気が細く揺れて夜気に溶けていく。
いろどりの山道に点在する温泉の一つに、私は白衣のまま、肩まで湯に沈めていた。

流石に人前で肌を晒す勇気はない。
湯の縁には数人の客ボウケンシャーがいるし、どこで魔物に出くわすか分からない以上、服を脱ぎ捨てる気にはなれなかった。
濡れるのは構わない。乾かす手段はある。

湯面を揺らす風が柑橘の香りを微かに散らす。
上空はよく澄み、星は鮮烈。視界を縦断する滝の白が紅葉の色を映している。
自然だけを切り取れば、なるほど観光スポットとして宣伝しているのも理解できる。

ふと、時間の感覚が戻ってきた。

リシェル
「……ここに来たのは、3~4か月前だったな。
 事前通達では『調査は長くて1~2か月』とあったはずだが」

帝国本国をこんなに長く離れた経験はない。
研究所の空調音、資料室の乾いた紙の匂い、同僚との雑談。

……そこまで恋しがる質ではないと思っていたのだが、距離が延びれば、僅かに胸の底が軋むものだ。








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