Eno.380 黒羊の欠けない月は  Ps.05 『意味を、心を、感情を』 - はじまりの場所

 
                「それは、なに?」

  ―― 声がする。
     青空よりも澄んだ音色は、
     私に尋ねている。        ――

「知らない訳も無いでしょう。」

  ―― 視線は向けない。
     向け様としても、手に持つもので、
     視界は遮ったまま。       ――

            「そうね。知っているわ。」

  ―― 音色は、ただ綺麗なまま。
     感情は乗せていない。      ――

         「不完全で、非効率な記録媒体。」

  ―― だから私も、それを聞かない。
     一枚、ページを進める。     ――

          「なぜ、と尋ねたのだけれど。」

  ―― 分かり切った事を、明らかに。  ――

「知っています。」

  ―― 分かり切っていると、答える。  ――

                「なら、教えて。」

  ―― 苛立ちも湧かない。
     何を言った所で、意味も無いから。
     本を、閉じる。         ――

「知りたいのなら、自分で読んで下さい。」

  ―― 突き付ける。
     しかし、受け取る事も無い。   ――

              「私が知りたいのは、」

「あなたには理解出来ませんよ。」

  ―― 読んだとしても、
     読まなかったとしても。
     書かれたものも、その理由も。  ――

         「そう。それなら、読まないわ。」

  ―― そうするだろうと、分かっていた。――

       「人間の記したものなんて、
        理解出来ないに決まっているもの。」

  ―― 人間で無いそれは、そうすると。 ――

         「あら。でも、おかしいわ。
          それならあなたは、
          如何してそれを読んでいるの?」

  ―― そう。
     人間で無いのは、私も同じ。
     だけれど。           ――

「理解出来ないから、読んでるんですよ。」

  ―― ページを、開く。
     私達に、それは理解出来ない。
     その本に記された、
     意味を、心を、感情を。     ――

        「私達に理解出来ないものなんて、」

  ―― その言葉の続きは、
     聞かない事にする。
     それを聞いてしまっても、私は。 ――

          「何の価値も無いものなのに。」

  ―― 苛立つ事も、出来ないだろうから。――
 








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