Eno.436 レイシー・ヌーン  お昼どきの魔女 - はじまりの場所

─────とある少年魔法使いの故郷─。

 一点の雲もとどめぬ青空、地平線の先まで敷き詰められた黄金の麦畑。
この広大な麦畑の主、お昼どきの魔女ポルガ・ヌーンは鼻歌を唄いながら帰路へ着いていた。


お昼どきの魔女
「~♪さんさんさーん♪お日さーまさんさん♪」





 お昼どきの魔女はいつも通りの風景に満足げな様子でぐるりと自分の麦畑を見回してから屋敷へと戻った。
屋敷の門はギイィィ、と古びた悲鳴をあげながらも主人を待っていたかのようにひとりでに開く。
家主であり自分達の主人である彼女の帰りに、魔女の弟子、ならびに下僕の妖精たちはみな一斉にかしずいた。

「お帰りなさいませ」「お帰りなさいませポルガ様」「お帰りなさいませご主人様」

お昼どきの魔女
「ただいまっ!ねえ、昼食の準備は出来ていて?あたくしもうお腹ペコペコ!でも12時までもう少しあるのよねえ、パンでもつまんじゃおうかしら…
あら?あらら?誰かいる?今日はお客様が来る予定なんて無いはずだけれど」


「ご主人様」「ポルガ様」「…ご令姉様がおいでです」

お昼どきの魔女は広間の椅子に静かに座っている姉──真夜中の魔女ノクニツァの姿を認めるなり、まあっ!と大仰に感嘆の声を漏らす。

お昼どきの魔女
「無礼ねえっ!使いも出さずに一体なんの御用かしら?あたくしは姉さんと 違ってとても忙しいのよ!早く済ませてさっさと帰ってちょうだい!」

真夜中の魔女
「……三ヶ月ほど前、あなたの弟子のレイシーが、わたくしの元へ占いと助言を求めにやってきました……あの子、悩んでいましたよ……」

お昼どきの魔女
「だから、なに?それを言う為だけにわざわざやってきて、あたくしの時間を浪費しているの?うふっ!あっはっはっは!姉さんったら!おっかしい!
ねえ、今日は満月?また月の狂気にでもあてられておかしくなった?
 気付け薬代わりの麦酒でも出してあげましょうか?」

真夜中の魔女
「わたくしは狂ってなどいません……!!貴女に、姉なりに忠告をしにきたのですよ…!貴女は、もう少し下のものに慈悲を払うべきです……」


お昼どきの魔女はそれを聞くとまた息を噴き出し腹を抱えて、小さな少女のように笑い転げる。

お昼どきの魔女
「あっはっはっはっ!あーはははっ!ふふふっ!
またおかしなことを言うわ!やっぱり頭がどうかしてるのねえ…。
あたくしの管轄下の仕事の量と弟子の数を把握しているかしら?
いちいちやっていられるわけが無いじゃない そんなことをっ!!!」」


堰を切ったようなお昼どきの魔女の怒声に真夜中の魔女と屋敷中が冷たく静まり返る。

真夜中の魔女
「……けれど……」

お昼どきの魔女
「姉さんがご慈悲の安売りをするのはあたくしの知ったことではないわ。
 でもよくって?姉さんのお得意のお慈悲や手慰めのお遊びでは
民草の腹は膨らまないのよ?
 上に立つものとして下々のことを本当に考えた時民草と一緒に
めそめそ泣いてばかりいるのではなく飢饉を防ぐ為に畑に植える
農作物を増やしてパンのひとつでも多く作らなければいけないのだし
薬の研究を進めて流行り病を斥ける方法を一つでも増やしておくべきなのよ」

真夜中の魔女
「だけれど……あなたのやり方は横暴がすぎるわ……」

お昼どきの魔女
「横暴でけっこう!あたくしを誰だと思っているの?
太陽の娘、正午の魔女、真昼の悪魔、農耕の化身、あまねく全てを白日の下へひきずりだすもの、ポルガ・ヌーンよ。
その弟子が主人の望む薬草すら持ってこられないと?
そんな訳が無いわよねえ?お得意の占いで"詠んだ"のでしょう?」

真夜中の魔女
「……病を防ぐのはゾーリャの専門です……
妹の仕事を奪うつもりなのですか…!?」

お昼どきの魔女
「まさか。手伝っているだけよ姉らしく、ね」

真夜中の魔女
「……っ!」


怒りを滲ませた姉の様子にお昼どきの魔女は呆れたように大きくため息を着く。

お昼どきの魔女
「姉さん、あたくし達は"空"よ。
弟子の一人が処遇が哀れだとかそんな非生産的な話に割く時間なんて
一秒たりとも無いの、いい加減その自覚を持ってちょうだい」

真夜中の魔女
「……今日のところは、失礼します……」

お昼どきの魔女
「ええ!ええ!ほらお前達、お見送りの準備を!大きな声でね!
 声の小さい子や行儀の悪い子は昼食抜きよ!
 さようなら姉さん!ありがとう姉さん!」」


「「「さようならノクニツァ様、ありがとうございましたノクニツァ様」」」

お昼どきの魔女
「当分来なくていいわよーっ!」


礼儀正しい弟子たちの挨拶が玄関まで響く中、お昼どきの魔女は席も立たずに
 ぶんぶんとこれまた大仰に手を振って肩を震わす真夜中の魔女の背中を見送った。

真夜中の魔女の姿が完全に日陰の闇に溶けた頃、弟子の一人が主人に疑問の声を掛ける。


「よろしいので?仮にもご令姉様にあんな言い方をされて……」

お昼どきの魔女
「いいのよ、姉さんたら昔からあたくしにケチつけるのだけが趣味なのだから
 はぁ~あ…姉さんの湿っぽい顔は見るはめになるし
 気晴らしに踊ろうとしてもみんな仕事で出張っちゃっているし
 屋敷には華がなくていやになっちゃうわあ~」


お昼どきの魔女
「レイシー、早く帰ってこないかしらあ…」









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