Eno.360 トカゥ  はじまりの記憶 - はじまりの場所

今日の月は静かだ。
窓の外はとっぷりと暗く、白兎の足音も聞こえない。
ただ、隣で彼女が眠っていた。

安心しきった寝顔。
幸せそうな笑顔。
たまに見せる困り顔。

些細な出来事を拾い集め、夜ごとに並べては眺める。

湯気の立つお椀を差し出され、受け取れば、彼女はいつものように微笑んでくれる。
その顔は、どんな夜の中でも灯のように俺を照らしていた。

並んで歩いた道の石畳、手に残る温もり。
記憶の中の彼女はいつも幸せそうで、この時がずっと続けばいいと願った。

一つ一つが、俺にとっての宝物だ。

眠りを恐れることなく、ただ目を閉じれば、すぐそばに彼女の呼吸がある。
それだけで夜は安らぎの時になる。

この夜を続けていければいい。
常夜の中の朝が来て、隣に彼女がいる日常を。
月守として、夫として、この安らぎを守りたい。

今夜の空は、欠けることを知らぬ光に満ちていた。








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