Eno.733 木早 永心  この地での記録11 - はじまりの場所

「何の真似か、エイシン殿…!
 余所者が国の大事に首を突っ込むではない!!」

 間一髪、二人の間に飛び込んだ己は振り下ろされた大剣の軌道を何とか刀で逸らせることに成功した。

「…左様、某は余所者の流れ者。
 国の大事にどの面で首を突っ込もうか。
 されど、友の為に刀を振るうことは有りますぞ。」

「おのれっ、邪魔をするな…その者は国を亡ぼす!」

 国王の大剣が再び振り翳された。
元より刀というのは大剣を受け止める戦い方を想定されてはいない。
頑丈な刀だが、打ち合えば不利になるのはこちらであろう。

「待たれよ、国王殿は死んだ筈。…ならば、必然貴方は偽者。
 偽者が何を大層なことを言うか。」

 時間稼ぎの為だが、言葉というのは強い武器になるものだ。
特に武人というのは自分の義や誇りを証明したいものである。

「私は確かに死んだ身よ、しかし…
 我が古き友は死んだ肉体に仮初の生を与える術を持つ。
 それが理由だ!」

「…っ、イシカリ殿の仕業かっ。
 だが、おかしい。
 あの業突く張りが友情で術をかけるとなど信じがたい。
 さては、国王殿。
 命未練に国の大金を積まれたか?」

「馬鹿を言うな!
 私は二十年前、自分の金でイシカリ殿と契約したのだ。
 死後に大事有ればそれを断つ為にな!
 分かったか!!」

 怒気を籠めて大剣を振り下ろさんとする国王。
しかし、既に己は会話の最中に眼帯を外していた。
振り下ろされた大剣は空を斬る。

「幾重にも舞い、夢知らぬ骸築く、これが奥義……ッ!」

 手加減出来る相手では無い。
全力で刀を振るい国王の両腕を斬り飛ばした。


……
………

「お父様、私は…私は…強くなりますから。
 叔父様にも勝手にはさせません。」

 アリア姫は強い決心をもって国王に語りかけた。

「……我が娘よ、強く…強く国を導くのだぞ。」

 その言葉を最後に、ふと糸が切れた様に国王の身体が倒れた。

「どうやら国王殿の未練が失せたようですな。
 我が術法を保たせる大きな力はこの世への未練、それが失せれば仮初の再生は終わるのです。」

 何時の間にか大広間に現れたイシカリが国王の亡骸に頭を下げた。

「イシカリ殿…色々と話してもらいますぞ。」

 己は刀をそっとイシカリの首へ突きつけた。

「簡単な話ですぞ。
 私は二十年前に友と契約をし、それを果たした。
 国王殿が何を為すかは私は知らぬこと。
 それだけです。
 死者の再生、それを禍々しく思われるかもしれませんが、それは技術の話ですしな。」

 フォッフォッフォと笑うイシカリ。

「…用心棒のお代、きっちり払って貰いますぞ。契約通りに。」
 
………
……


 アリア姫が女王となったあの小国は風の噂では上手くやっているらしい。

「いざとなれば、国を捨てて逃げれば宜しかろうかと。」

「…それは出来ませんよ。だから、頑張ります。」

 浮草の己では何の役にも立てないが、遠くからその頑張りを応援している。

 そして…。
あの日以来、イシカリと再会することは無かった。
しかし、妙な縁は有るものですぞと、別れ際に言い放ったイシカリの愉快そうな様は今でも覚えている。
せめてこの楽しい島では再会したくないものだが…。








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