Eno.52 LReaper  記録⑥:ある逸脱者、それがLReaperたる所以。 - はじまりの場所

家族がひどい悲劇の中にいるって知ったあたしは、旅と研究を続けたわ。
幾度も世界を飛び越えて、数多の技術を手に入れた。
幾人もの魂を刈り取って、数多の道具を作り出した。

そう、見つけ出したの。魂が秘める力を取り出す方法。
彩花庭園にある、「想いが力を成す」法則の正体、意志の力、魂を持つもののみに許された奇跡の所以。
付随する記憶や人格は排して、純粋な魂の髄だけを精製して取り出せば、
それは金属に似た光沢を持つ、無色透明な液体になったわ。

精製した魂は、それだけで強い力を持つばかりか、他のエネルギーの代替としても補助としても有用だった。
正しく刻めば、耐久性にも優れていた。
魂を使って、魔術式を道具に刻んだら、極小量の魔力を流すだけで即座に術を発動する魔道具になった。
改良と小型化を重ねて、それは指輪になった。
障壁の生成、ベクトル操作、温度操作、身体能力操作、魂への干渉、物質の構築、身体再生……
様々な術式を刻んで、各指に割り振った。
左手の薬指だけは、そのままね。

それから、道具に込めた魂の色や様相が使用者のものと近ければ、より強い出力で魔術が行使できることもわかった。
──無数に重複した、あたし自身の魂。
取り出して、削って、削って、なんでも試してみましょう、
材料は時間はいくらでもあるのだから。
足りなければ取ってくればいいんだわ、ああ、いくらでも研究できるって、幸せ!

魂に係わる魔術をいくつも込めて、杖にして、
世界を飛び越える複合魔術を、そのまま脚にして、
磨かれてゆく技術、なんて素晴らしいんでしょう!広めるべきだわ!
ちゃんと文字にして、色んな世界に残しておきましょう!
そうしたら、いつかあの子たちの助けになるかもしれない!

ああ、もっと、もっと力が必要だわ!
どんなに世界を越えても、演奏者の玉座に届かない!あの子たちのところには届かない!
なんでも構わないわ、なんでもいいの、あたしの願いを叶える術を!
あの子たちを救って、演奏者を殺すに足る力を!悲劇を終わらせる刃を!

まだ、まだ足りない!どんなに重ねても届かない!
いいえ、不可能なんてありえないの!なんだって届かせてやるのよ!
もっと力を!もっと知識を!もっと技術を!
暇人でも邪神でも構わないわ、なんにだってなってあげるしなんだって殺してあげる、だから!

あたしに、あの子たちを救わせてよ。





アウトサイダー
「……やあ、やっと来たね、マイト。
 今回の旅は随分長かったじゃないか。
 君が来るのをずっと待っていたんだよ。」

アウトサイダー
「いやしかし、君も無茶をする。
 この他世界と隔絶された劇場にまで、君の悪評は届いているよ。
 世界を飛び越えLeap、魂を刈り取るReapLReaperリーパー……ふふ。」

アウトサイダー
「それでも、力に呑まれ、目的を失うことがないのは、素晴らしいね。」

アウトサイダー
「ああ、そうだそうだ、本題だよ。
 見てくれたまえ、素晴らしい結末だ!」




主神の呪いに心を壊され、怨霊と化したクレフィオルト。
だが……彼がいたのは──クロスワールドだったんだ。

あの悲劇は、演奏者Playerが強いた運命だった。
だが、クロスワールドだからな、演奏者Playerの奏でる運命に縛られていない者たちがいた。他の旋律が加わったんだ。
彼らのおかげで、クレフィオルトは正気を取り戻した。
そして、家族と世界を救うために、再び動き始めた。

世界を滅ぼす要因を潰し、家族を救うため……
すなわち、瘴気を殲滅し、主神の呪いを打ち倒し、
最後の獣と成り果てた肉体からアスターとクリスフィアの魂を解放するために、
クレフィオルトや円環の女神が動き出した。
全ての解法は、クレフィオルトを殺そうとした情報の濁流から得られた。あとは材料が必要だった。
材料を探す彼が掴み取ったのは、「魂を肉体から取り出す方法」。
……これは君がどこかの世界に残した論文だろう?
直接会うことはできずとも、君の旅路とその成果が、彼らに鍵を与えたんだよ!

次に最後の獣がクロスワールドに現れた時、全ての準備は整っていた。
彼らを救い、世界を救う、最後の戦いの算段はついていたんだ。
魔獣討伐戦線。クロスワールドの勇士たち……演奏者Playerの音に操られることのない勇者たちが、彼らのために戦ってくれた。

──そして、ことは成された。
瘴気は消滅し、呪いは滅ぼされ、アスターとクリスフィアの魂は救い出された。
世界が滅ぶ要因は全て消え去り、世界は救われた。すべては救われたんだ。彼らが、やってくれた。
君の家族は、君の故郷は、救われたんだ。
演奏者Playerの手による悲劇でない、ハッピーエンドを迎えたんだよ。



アウトサイダー
「つまり、あとは君が合流すれば、本当に大団円だ。」

マイト
「……いいえ、違うわ。」

アウトサイダー
「何か不満かね?」

マイト
「あの、論文は。「魂を肉体から取り出す方法」は、
 あたしが書いたものじゃない。」

アウトサイダー
「……そんな、まさか。」
「だとしたら演奏者は一体何をしている?
 ことがクロスワールドで進められたとはいえ、手綱は握っていたはずだ。
 前々から疑問に思ってはいたが、
 これではマイトに興味が無いどころか、まさか」

アウトサイダー
「物語からマイトを排除しようとしている──?」



マイト
「……じゃあ、」

マイト
「じゃあ、あたしが今までやってきたことに、意味なんてなかったのね。」

アウトサイダー
「マイト……」

マイト
「あの子たちを助けたくて、救いたくて。なんでも、なんでもやったわ、なんでも切り捨てて、」

マイト
「けれど」

マイト
「助けることも、会うことすらできないんじゃ、
 なんの意味もないじゃない……!」


アウトサイダー
「…… 。今日はもう、休むといい。」






あれからマイトは、世界を救い、幸せを取り戻した彼ら家族の記録を見続けている。

アスターはずっと不安定な状態が続いていたが……クロスワールドへの訪問を経て、精霊に生まれ変わった。
希望の象徴、一等星だ。輝かしいじゃないか。

無数にいたクレフィオルトたちは、100人にまで統合され、彩花庭園の信仰を得て神性を獲得した。
新時代の象徴、異世界渡航の神、だそうだ。

救い出されたクリスフィアは、肉体を貰って、可憐な騎士になった。
瘴気からも解放され、家族と共にいられる幸せを噛み締めている。
マイト
「聞いた時は取り乱してしまったけれど、そうよ、あの子たちは再会して、幸せになったんじゃない。」

マイト
「それなら、……それなら、いいのよ……」

そんな彼らの姿を、ぼんやりと、ただ繰り返し見ていた。





アウトサイダー
演奏者Playerは一体何を考えている……?
 こんなに世界を渡り続けているマイトが、
 クロスワールドに至れないのも不可思議だ。
 いや、そもそもマイトが私の所に来れただけでも不思議なのに……」

アウトサイダー
「やはり、視界の外に置いているというより……
 意図的に排除しようとしているとしか思えない。
 彼ら家族が真にハッピーエンドに辿り着かないように
 妨害しているということか……? 性の悪い。」


アウトサイダー
「......、......? なんだ、この封筒は。いつからここにあった?」

アウトサイダー
「こ、これは……!
 ああ、なるほど、そういうことか。
 それなら、マイトを私と引き合わせたのも合点が行く。」

アウトサイダー
演奏者Player、貴様、
 私を上位者から登場人物に格下げしようとしているな?
 もはや形骸化している創造主Createrと我々の三位一体の構図を破壊してまで、
 貴様が全ての実権を握ろうとしている。そういうことだな?」

アウトサイダー
「愚か者めが。この私がそんな見え透いた餌にかかると思うなよ……!」






アウトサイダー
「やあ、マイト。気分はどうかな。」

マイト
「……わからない。
 ……これからどうすればいいのか、わからないの。何もやる気が起きない……」

アウトサイダー
「君にプレゼントがある。これを」

マイト
「なに……封筒?」

アウトサイダー
「開けてごらん。」





「 素敵な庭園をオープンしました。
  
  ここは、周囲すべてが空という空間の中に浮かんでいる、一つの島。
  
  広々とした世界と豊かな自然。冒険の疲れを癒やすのにぴったりです。
  
  良かったら、ぜひお越しください。                」





マイト
「……これって、招待状?」

アウトサイダー
「ああ。クロスワールドの一種、神の庭園……
 ストロールグリーンへの招待状だ。演奏者Playerの奴が私に寄越した。」

マイト
「でも、これがあれば、
 あなたはこの小さな世界から出られるんじゃないの?」

アウトサイダー
「この劇場から出るということは、私は私……傍観者Outsiderではなくなる。
 演奏者Playerは、自由を餌に私を蹴落とそうとしているだけだ。」

アウトサイダー
「確かに魅力的な餌だが、その考えが気に入らない!」

アウトサイダー
「私の事情はいいんだ、君がそこに行きなさい。
 愚かにも君を物語から排斥しようとする
 演奏者Playerの高い鼻を明かしてやろう!」



段取りはこうだ。
その招待状が導くのは、我々にとって過去の時間軸……既に確定された物語だ。
そこに、君という無視できない異分子、運命に対する致命的なバグが飛び込み、
そうだな……カルツァ。クレフィオルトの友人であり、クリスフィアの体を用意した彼だ。過去の彼がその時間軸の庭園にいるはずだ。
カルツァに接触すれば、タイムパラドックスが発生する。演奏者Playerは世界を書き換える必要に駆られるだろう。
平行世界を生成して解決しようとするだろうが、奴の意思では動かせないクロスワールドが絡んでいるんだ、そう簡単な話ではない。
創造主Createrも首を縦には振らないだろう。既にいくつもの世界線を作った彼は、もう重労働に嫌気が差しているからな。
となると、時間軸を歪にズラさなければいけないが……そんなことをすれば、
彩花庭園と関係世界の繋がりを管理しているクレフィオルトが確実に気づく。
彼らは何が起こったかの調査に訪れ、君の存在に気づくだろう。


アウトサイダー
「やってしまえ、マイト。演奏者Playerの筋書きをズタズタに引き裂いてしまえ。」

アウトサイダー
「君が悲劇を殺す死神Reaperとなり、今度こそ舞台に飛び乗るleapんだ!」

マイト
「わかったわ……あたし、やってみせる!」

マイト
「今度こそ!本当に幸せな結末にしてやるわ!」









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