Eno.322 守護天使 ✜とある宿にて - はじまりの場所
ちいさな天使が庭園生活を満喫している、一方その頃。
見習い天使の失踪はちょっとした騒ぎになっていた。
大事…というほどではないのだが、それは全体としての話。
やれ監督不行届だの、やれ悪魔の謀略だのと管轄内の天使達はてんやわんやであった。
前者も前者だが、
交戦の末の堕天も少なくない中、その手が見習いに伸びたらどうなるかなど。
しかしそのような痕跡は無く、けれども見つかることもなく。
一向に進展のないまま時間ばかりが過ぎていった。
そんな中、この話をある天使の元へ持ち込んだ者がいた。
其処は空の上──ではなく、地上のとある宿の一室。
申し訳なさげに翼を下げた天使の目の前で、じいと見下ろすまた別の天使。
話を持ち込まれた男 ──正確にはこれは正しくないが、便宜上こう称する── は思案していた。手元の封筒を軽く弄びつつ、確認するように呟く。

✜
「……引率中に見習い一名が行方不明、か」
「……引率中に見習い一名が行方不明、か」

✜
「襲撃があったわけでもなく、直接的な干渉の形跡も無し。
見習い故に自主的な離脱の可能性も低い、と……」
「襲撃があったわけでもなく、直接的な干渉の形跡も無し。
見習い故に自主的な離脱の可能性も低い、と……」

✜
「にしたって、相談先を間違えているんじゃないか。
今の自分は本来の職務から離れている。他の天使がいただろうに」
「にしたって、相談先を間違えているんじゃないか。
今の自分は本来の職務から離れている。他の天使がいただろうに」

✜
「それとも、今の自分 だからか?」
「それとも、
天使は頷けなかった。男の言う通りだったからだ。
男は自分よりもずっと上の位の天使であり、そも管轄からして違う。
けれども彼でなければいけなかった、彼であればという考えがあることも事実であった。
返された沈黙を肯定と取ったか、男は納得したように頷いた。

✜
「ああ…、ならばこう返すべきか」
「ああ…、ならばこう返すべきか」

✜
「──依頼の話であれば聞こう」
「──依頼の話であれば聞こう」

✜
「“冒険者”のやり取りというものを、
まさか知らずに来たわけではないだろう?」
「“冒険者”のやり取りというものを、
まさか知らずに来たわけではないだろう?」