Eno.109 真上シンヤ  X日目-座標x:__,y:__ - はじまりの場所

「あ、あー、コード0186。接続テスト」

  『確認』

フラワータワーの深部、
他の部屋とは違って人工的な明かりを放つモニターの数々と配線、
その中心には脚も無く浮く椅子に深く座った青年が
片耳に着けた装置に触れながらもう片手で投影されたキーを途切れることなく叩いている。

『どもー』
『今日は十分前じゃないんですね』

「そんなこともあるよ」

『明日の天気は槍か~?』
『大寒波くらいに留めてもらえません?』
『交通機関混乱するからやめろ』
『昔って電線が地上にあったから雪の重みで切れて停電したりしたらしいっすよ』
『うわこわ』
『それ今起きたら……』
『『『……』』』

それぞれ声音が異なるように設定された合成音声が
次々に話しかけてきたかと思えば一斉に静かになる。


「15分前に来ただけで何想像してんだよ」

はあ、とため息をつくと数秒の間をおいてそれぞれに笑った呼気。

『おかたーい』
『職場ジョークも通じないなんて悲しいわあ』
『そのくらい珍しいってハナシよ』
『実際なにかあったん?』

「特に何も」
「あー、『0186 state standby』
 みなさん何時交代になってもいけそうですね」

『わー、チーフがあがったばっかりのやつに残業させる~』

「終業後ならとっとと落ちてください」

青年は軽口に乗ることなく淡々と自分がいない間の異常ログを開いて目を通していく。
それが常なのか、合成音声越しでも誰かが気分を害した様子はなく、

与太のネタも尽きたのか、静かになってしばらく。
黒い背景に白か寒色系の文字が表示されていた画面の一つが黄色い文字を映し、
ピリリ、どの声よりも認識しやすいアラームが小さく鳴る。

『まあそうなるよなー』
『担当は?』
『少な目』
『こっちもだな』

「それ以上は情報漏洩になるけど」

『はいはい』
『ラインは越えないから報告しなくていいよー』

「注意されてる時点で」

『はいはいはいー』
『さー、ちゃんと働きますか』
『平穏な日々のために』
『『ためにー』』


それから数時間、触れても音の鳴らない盤面に視線を落とすことなく、
モニターに表示された監視カメラの映像を確認して報告しては別のカメラに切り替えて現れる人を観察して報告。
絶えず詰みあがる報告に対する調査結果のポップアップを枠の色だけで判断し、作業を続ける。

その様子はどこかの警備室のようだが、
監視カメラは一つの建物の中ではなく――操作する度に地域……国から違う様式の建物や街中に変わる。
 
 
真上シンヤ
 職業――警備員
 職場――no date国家機密
 規模――no date国家機密
 所属――no date国家機密


「志望理由?在宅でもできるとあったので」
 

 
「……元の場所とここの時間が連動していたら無断欠勤になるんでちょっと焦ったけど」
「こっちに来たときから進んでいないみたいで助かったよ」
「おかげでここでも仕事する準備までできた」

「え?帰ってからでも働けるのに、って?」
「……ほら、感覚鈍ったら困るから」
 
 








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