Eno.442 巫伽 惺&鈴  巫伽 惺 - はじまりの場所

 名前を呼ばれた瞬間、意識が戻った

 どうやら私は一日中夢遊病のような状態になってたようだ

「……あれ」

 いつも通り、新月らしく振る舞おうとした
 けれど、まるで抜け落ちたようにそれが出来なくなっていた

 鈴が近付いては、思わず抱きしめてしまう
 鈴が愛おしくて仕方がない。見てるだけで撫でたくなる

 あぁ、そうだ。あの子も・・・・抱きしめられるのが好きだった

 あの時は私より背が高くてしっかりしてるのに甘えん坊で
 椅子に座って上目遣いしたりもしたっけ

 でも私のして欲しい事はすぐに察してくれたり
 そういう優しい所も大好きだった
 ……戦う時に隙あらば抱きつかれたのは恥ずかしかったけど

 夢の中で教えられた事はたくさんある

 私が追いかけていた光はかつての友人ではなくて新月だった

 新月は「物語を幸せなまま終わらせて」なんて願ってなかった事
 本当の願いは「僕達の旅路を未来へ連れて行って欲しい」だった事

 私がしてた新月の再現は、新月に憧れた少女のする真似に過ぎなかった事

 私は、巫伽惺にしか成れない事

 ……巫伽惺としての・・・・・・・自我は、結構面倒な性格であると言う事だ


 私は、私を呪っていた過去を燃やす事にした
 なんとしてでも連れてこうとする新月だったら絶対にしなかっただろう

 朽ちた者は灰となり、灰は天へと登り、天の星となり安らかに眠る
 記憶だってきっとそうだ

 もちろん約束は燃やさない
 燃やすのは君の悲しみと、私を縛っていた呪いだけ
 きちんと弔わなければ、腐り果てた傷と過去に蝕まれてしまうから


「……どうか、星となって、友の傍で幸せに眠って欲しいものだ」

 そんな願いを込めながら、私は君の剣を握りしめた








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