Eno.341 カプリコパン・パフラパン  一歩目 - はじまりの場所

カプリコパン山羊の神パフラパン誉れ高き英雄

パフラパンとは故郷に伝わる古い言語で『パフラヴァーン』と言い、この姓を持つ父方の血族は龍をも屠ったとされる英雄だったという。
その腕は一撃必殺の誓いと共に砕けぬものはなく、その四つ足は神速と謳われていた。


「本当かどうかは分かりませんけどね」


――その末裔というものがこの自分らしい。
伝承に伝わる英雄の末裔が真実だとして、ここにいるのは山に囲まれた森にある、閑散とした村社会で生まれた山羊人であった。
カプリコパン――山羊の神などと大層な名を貰っているが、母の故郷に伝わる異教の言語で『山羊』と『牧羊神』を意味する名を拝借しただけのもので、特筆した意味はない。

ただそれでも、そう名付けた意図は理解できる。
自分は本来、四つ足を持つ山羊の獣人であり、異国に伝わる人馬ケンタウロスに近い姿をしている。
魔法らしい魔法はあまり得意ではなく、弓と斧を振り回す部族なのでどれかといえば蛮族で――森の中で暮らしていたのは過去、それこそご先祖がやらかしたのかなとか――思う所は色々あるが、それは主題ではないので置いておくとして。

この山羊人は、山羊人の父とと人間である母との生まれた半獣半人だ。
父親は英雄の末裔と言う事もあってか立場は偉く、多くの妻を持つ村の護り手でもあった。
母は若い頃に森の中へ口減らしのために追放されたのだか捨てられたかで、村に迷い込んだ末に父に助けられた。
そうした経緯から幾人目かの妻として受け入れられたのだとか。
しかしながら、母は自分を産んだ後に亡くなったらしい。
人間である母はよく子供たちの面倒を見てよく献身していたというが、無理がたたってお産に耐えられず、という顛末であった。
そのまま生きていれば他の子どもたちの世話もまとめてできる『子供の護り手』になれるとさえ言われ、尊敬されていたのに。

特段、感慨深いものとか、悲しいとか、そういうのが湧いてくるわけではなかった。
ただ『間』が悪かったな、と思う事はどうしても出てきてしまった。

人間や同じような獣人であっても『そういうもの』『同じもの』と認識されるが、同族にとってこの山羊人の身体は不具を持って生まれた奇形に近い認識だった。
村社会であることから奇異の眼、好奇の眼――直接的に言えば気味の悪い物を見るそれとして扱われていた。
それでも、曲がりなりにも護り手の子供。
幾人目かの妻の胎から生まれたとはいえ大事にされていたという自覚はあるが、周囲――特に同世代からは良い顔をされなかった。
純血よりも脚は遅く力もない。手先はそこそこ器用だがどんくさく、護り手らしくないと言われてしまう。
そのまま何もしていなくていいんじゃないかと土をかけられた事も珍しくはない。
実力主義であることもあり、父は自分が這い上がる事を期待して悪し様にも言わないが、手を差し伸べることもなく。

――それが嫌になって、村を出ることにしたのが旅のキッカケだった。








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