Eno.133 兎耳天使ラビト 妹からの手紙 - はじまりの場所
姉さまへ
お元気で、素敵な場所でお過ごしとのこと、少し安心いたしました。
わたしは元気にしておりますよ。
学校を卒業し、仕事の研修を受け、充実した日々を送っております。
久しぶりに姉さまの書いた文字を見ることができて、嬉しくて泣いてしまいました。
父さまと母さまも喜んでおられます。
姉さまが旅に出られてから、もう6年になりますね。
ひとつ、心に引っかかっていることがあるのです。
わたしが姉さまのことを、上の女きょうだいを表す言葉で呼んでいることで、姉さまを傷つけてしまっているのではないかと、気がかりなのです。
便宜上姉さまと呼んではおりますが、わたしは姉さまの心の形を否定しているわけではありません。
わたしは、ただただ、ありのままの姉さまのことを、慕っておりますよ。
無理に姉として手本であろうとする必要も、頼りがいのある兄であろうとする必要も、ないんです。
がんばろうと努力するのは姉さまの美点ですけれど、わたしといる時は、どうか肩の力を抜いていただけないでしょうか。
一緒にいられたら、それだけで幸せなんです。
寂しいです。会いたいのです。
1日でも早く姉さまが帰ってこられる日が来ることを、祈っています。
フェメランサシェルより

ラビト
「サシェル……」
「サシェル……」
妹から、手紙の返事が届いた。
文面を見て、涙が零れてきてしまって。指で拭う。
彼女は……ありのままのわたしを、愛してくれていた。

ラビト
「手紙、届けてくれてありがとうございます。
……カコクセネル 」
「手紙、届けてくれてありがとうございます。
……
わたしに手紙を届けてくれたのは、幼馴染の一人……ではなく、従兄だった。
戦闘タイプの天使。狼型。心の性別は純粋に男性。
背が188cmあり、筋肉質で大柄。
髪は黒く、目はアメジストエレスチャルのように、紫をベースにカコクセナイトのような金の針が走っている。
寡黙でしかめっ面がち。

ラビト
「まさか君が来るとは、あまり思っていませんでした」
「まさか君が来るとは、あまり思っていませんでした」
「“あまり” ……な。少しは来る可能性があると思っていたのか」
彼とは、そう仲が良いわけではない。悪すぎもしないけれど。
ただ、互いの主義主張、価値観が違いすぎて。精神的に距離がある。
「お前の仲良し連中達がどうにも多忙で、郵便を頼みづらいとサシェルに泣きつかれてな」
妹は学校を卒業したようだけれど、まだ若くて自由に天界から外出する許可は下りない身分だ。誰かに言付ける必要がある。
「それに……俺は俺で、お前のことを心配してるんだ」
心配してくれている、というのは本心だろう。
彼は幼い頃から、わたしに……というより、兎型に対して過保護な面がある。
「“ ”。お前に――」

ラビト
「え?」
「え?」
従兄の言葉を聞き、わたしは耳を疑った。