Eno.504 幸運の死神  とある死神の昔話(2) - はじまりの場所

この国に住む耳付き達は追いやられ、自分達のコミュニティを作って暮らしていましたが。
そんな中、耳付きの街の奥の奥。昼でも薄暗い路地裏をねぐらにして。
時には人間様の街にまで出ていって悪さをする、親が居なかったり、捨てられた
子供達の親分。それが家を飛び出した後のベルでした。

親孝行で、愛情を受けなくても明るく前向きな子狼だったベルは、
すっかり悪い子になって、他の子供達と"しっぽ怪盗団"なんて名乗っていました。
ネーミングが可愛いですね。

そんな暮らしが数年続いて。
仲間の子供達は新しくやってきたり、人間様に捕まってしまったり。
入れ替わりはありましたが、ベルは変わらず子供達の親分でした。

ある日、ベルは堂々と人間様の街に忍び込んで、
今日の獲物を探していました。今日は路地裏で待っているチビ達に何を食べさせてやろうか。

3番通りのパン屋にしようか。屋台を出しているお菓子屋さんもいいな……
なんて考えながら歩いていると、ある玩具のお店、展示されている人形が目に入りました。


狼、というより犬でしょうか。
けものの耳の付いた女の子の人形。ずっと昔、まだ人間様と耳付き達の
仲が良かった頃に作られたものでしょうか。ずっと売れずに残っていて、
くたびれたそれには驚く様な値段が付いていましたが、ベルの目を釘付けにしたのは、そこではありません。


──あまりにも、お母さんにそっくりだったから。





ベルは、裏通りを走っています。お母さんそっくりの人形を抱えて。

ああ、運がありませんでした。
こんな耳付きの人形の一つぐらい、盗まれても玩具屋さんの店主は
さほど気にしなかったかも知れません、が。

その時玩具屋さんの店内には、何か他の用事で訪れていたであろう
人間様の兵士達が居たのです。

散々手を焼かせた子供達のリーダー格を見つけたとあって、
兵士達は躍起になってベルを追い掛けました。



数分もしない内に追い詰められたベルは、
捕まえようとする兵士達の手をすり抜け、噛み付き。蹴り飛ばし……必死の抵抗。

耳やしっぽが付いていても、いくら差別されていても人間様と同じ『ヒト』として扱われて居た
耳付きを、兵士達がいきなり死なせてしまう様な事は無いはずでしたが。


これもまた重なった不運。ベルを追い掛けている
兵士達の中には、他の耳付きに酷い事をされた事があるのでしょう、
強い恨みを持っている者が居たのです。


一向に捕まらず、一人、二人と兵士を蹴り倒して。
もうすぐにでも、いつもの様に逃げおおせようとしているベルに向かって、
雄たけびと共に兵士の槍が突き出されました。








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