Eno.358 ルクスリア  到着 - はじまりの場所

気づいたころにはすっかり暗くなっていた。

ここに移動するまでに残りエネルギーが切れたのだろうか、それとも単にいろんなことが起こりすぎて覚えていないだけなのか、ここに来るまでのことはあまり思い出せない。

「催しって聞いたから来てみたけど、何があるんだろうね?」

間近に聞こえた聞き覚えのない声ではっと我に返る。
目をこすりながら周りを見渡すと、いろんな姿をした人達がボクとは反対側の方向に視線をやりながら、
隣にいる人と世間話をしている。

ずっと何か握りしめていたのか関節が少し固まっていた方の手をほぐし、持っていた紙切れのようなものを取り出す。

「招待状...?」

この3文字を見て、ボクは家出中だということを思い出した。
それも他の世界をまたぐような、特大の家出である。
元居た世界の"草原"のかなり奥の方で、違う世界にわたることができるという装置を最強のレベルで起動したとき、この招待状が手元に届いて、そこからいろいろあってボクはここにいる。

ここに来るまでずっと追いかけてきた、いつも小言を言ってくるまるで世話役のような機械竜...エリクスに通信を恐る恐るつなげようとしても、何も応答がない。ボクは家出に成功したらしい。

そう思うと、ボクは急に元気が出た。
全く新しい場所でのびのびと好きなことができるまたとないチャンスだ。
もう誰もひとりたびをしても怒ってこないし、まだ遊び足りない時間に、
いつもいたずらにノーリアクションでムカつく機械竜...ミズチに腰の部分を担がれて変な格好で帰らされることもない。

「お!ゲートが開いたぞ!」

また別の人の声がしたと思うと、皆が向いている方へ一斉に歩き始めた。
沢山の足音がだんだん遠くへと移動し、やがて聞こえなくなるまで数分もかからなかった。

ボクも足音の行った方へ、気持ちが昂り始めているのを感じる。
この場に残った人たちも世間話をやめると、一人、また一人と前進を始める。

「エリクス、ボクもあっちの方行ってくるね!...あっ...」

いつもの癖であの名前を呼んでしまった。
すると、人気が急に少なくなったあたりのせいか、少しだけ不安と心が急に風通しがよくなったかのような寂しさが体中を駆け回るのを感じた。

「そっか...ここの人たちは、みんな別の世界の人たちだもんね...」

ルクスリア
「...でも、知らない人がいれば知り合いを作っちゃえばいいもんね!」


ルクスリアはそういうと頬を両手で軽くたたき、鼓舞するように深呼吸をして走り出した。
これから夜が始まるような時間ではあるが、幸いにも整備された道と街灯がある間はルクスリアが迷うようなことはないだろう。

軽やかに駆け出したルクスリアの不安は振り落とされるように夜空に溶け込んでいった。
しかしどういうことか、寂しさは噴水までたどり着いてもすべてを取り去ることはできなかった。


キャラクターストーリー「曙光の帰路」序章








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