Eno.436 レイシー・ヌーン  花壇の花たちのささやきを盗み聞きする - はじまりの場所

 ひそ ひそ ひそひそ
   
     くすくす うふふ
 
        ひそひそ あははは ひそ ひそひそ   

          ひそ   あはは  くす  くすくす  うふふ  ひそ ひそ……


レイシー
「………………」


──少年、レイシーは己の花壇のふちに頭をあずけ、しなだれかかるようにして寝そべっていた。
微睡んでいた。それと同時に、自分の世話する花たちのひそひそ話を盗み聞きしていた。
 どの世界でも花たちはいつだっておしゃべり好きで、うわついたうわさ話が大好きだ。
それはもう、猫が肉食であるように、魚が水生であるように、決まりきっていることだった。自然の摂理だった。

レイシー
「…………」


 花たちのうわさ話がひそやかにいかがわしくなった頃、レイシーはむくりとおもむろに起き上がった。
これ以上の盗み聞きは無駄だと思ったからだった。
 花たちのうわさ話の中に、万病を治す薬草らしき情報はひとつもあがらなかった。

──花壇からしばらく歩いて離れたところ、ちょうどいい所にあった切り株の上へレイシーは座った。

レイシー
ポワ……

レイシー
シュルシュルシュル……


 ゆいいつ使える魔法をつかって、ばらを咲かせる。

レイシー
「うん、うん……がんばるけど……だめかも……」


 ぐす、ぐす、とみどりのばらにむかって情けない泣き言をもらす。みどりのばらは、有力な情報などなにも知らない。
みどりのばらはレイシーの機嫌をとることしか喋らない。それでも今のレイシーになぐさめは必要だった。
──レイシーは花壇のそばではけして魔法を使わなかった。
 だって、まったく知らないひとが居るところで貴重品の保管場所なんて、ぜったいに話さないでしょう?

 みどりのバラが、この島にいる来訪者達の手に行き渡るころ、レイシーのみどりの小指の魔力みどりが腕全体に満ちるころ。
彼は望みの品を手に入れるのかもしれない……。








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