Eno.1 椋 京介  はなのきもち - はじまりの場所




種を遠くに運ぶというのは、多くの植物に見られる兆候である。
水・虫・風、それこそ食べられたり蓄えられたりすることで運ばれることもある。
その中でも、風で運ぶものを風頒布という。





風に身を任せて飛ぶその種子は、
偏西風に乗って西から東へと飛んでいく。



それは、東へ向かわんとする意志によるものか、
ただ意志なく流されるがままに漂っているだけなのか。

気候とか気流とか、そういったものを利用しているだけかもしれないし、
ただゆらゆらと風に"身を委ねて"飛んでいるだけかもしれない。

それはきっと、世界が流れる中でゆらりと決まっていくのだろう。
それはきっと、綿毛のような身体には意味があるのだろう。










京介
「...アジリ。」


京介
「何を見て、何を感じて、何を思っているんだろうか。
 綿毛をその身に纏う君は。」


京介
「君は空を飛び、雲の中を抜け、どこに向かおうとしているのだろうか。
 もしくは逃げているのだろうか。」


京介
「君は...きっと様々なしがらみから抜け出すために、
 自由に思う為に、どこかへ向かおうとしているのだろうか。」


京介
「...僕はわからない。
 それでも僕は...」


京介
「君は君が思っているより、自由なんだと思うよ。」











いくら空高く飛んだとしても、
何にも影響を受けずに生きることなんてできない。

どれだけ空は高くとも、
どれだけ天に近くとも、
きっとそこには天風が吹くから。







Fno.13 アジリ

春を告げる風と共に、アジリは西からやってくる――その羽のように軽い花は、風が運ぶのだと言われる。

アジリは寒さに弱い一方で、野生のアジリは冬を越えると一斉に育ち、花開くほどの生命力を持つ。
またアジリの一番の特徴は、綿状で羽のように軽い、ふわふわとした花にある。一輪摘み取って風に乗せれば、そのまま飛んでいくほどよく風を拾い、飛んでいくのだ。
それゆえアジリは春の訪れと共に風が運んでくる、という逸話が今も語り継がれている。

またこの綿のような花は軽さの割に密度もあり、十分な数を集めれば緩衝材としても用いることが出来る。そのためかつてはクッションなどの詰め物として、そして現在はガラスなどの壊れ物を運ぶ際に欠かせないものとなっている。
そうして繊細なガラスをも包むその花を称えて、「寛容な人」の花言葉を与えられたのだろう。

園芸としてのアジリはあまり目立つ花ではない。しかし、その優しい色合いと柔らかな花は綿雲のようであり、隙間へ上手に植えることで幻想的な景色を演出してくれる花でもある。
そのため育てやすさに反して、その特性から園芸熟練者からも密かに人気を集めている。

 








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