Eno.52 LReaper 記録⑤:ある劇場にて。赤と黒は真実を語る。 - はじまりの場所
特記:記録①~④に比べて、非常に長いです。具体的には7000字以上あります。
そのため、読み飛ばせる部分は折りたたんでいます。
また、異形・流血・不穏などを含むイラストが折りたたみ部分に含まれています。
あたしは、沢山の世界を渡り歩いた。
世界を飛び越えるのはとても大変だけれど、きっとその先にあの子たちがいるって信じてるから。
いろんな世界で、いろんな技術や魔術を学びながら、旅をしていたの。
頭痛や幻聴、記憶の混濁とか……世界を飛び越えてる弊害かしら?
不調はいろいろあるけれど、こんなので止まっていられないし!
あるとき、とても小さな世界に降り立った。
真ん中に大きな建物(ああいうの、劇場っていうんだったかしら)があって、それを取り囲むように綺麗な庭園がある。
外周はぐるりとラベンダーで覆われていたわ。
あたしはその劇場の主人に招き入れられて、お茶をすることになったの。
ここにはその人と、小間使いが一人いるだけなんですって。
「ここに客が来るなんていつぶりだろうな。
改めて……はじめまして、麻糸。会えて嬉しいよ。」
主人は、紅茶を注いであたしに差し出す。
「君のことはよく知っているよ。夫を失い、愛する子らを失ったことも、
世界を飛び出して何十年と旅をしていることも、最近様々な症状に悩まされていることも。」
「ああ、名乗っていなかったね。そうだな……」
自分の分の紅茶を一口飲んでから、彼は微笑んだ。
アウトサイダー:ある世界に住む謎の人物。麻糸や彼女の家族にまつわること、世界の真理など、様々なことを知っている。
彼は……アウトサイダーは、あたしに多くのことを教えてくれたわ。
あたしの住んでいた世界には、『彩花庭園』という名前がついていること。
彼は、あたしたちが信じていた創造神さまよりも高位の存在であること。
あたしの頭痛と幻聴、それに記憶の混濁は……『魂の重複』が起きているから、ですって。
今、あたしがいた世界……『彩花庭園』は、何度も同じ時間を繰り返しているんですって。
そしてあたしは、世界が繰り返される度に世界を飛び出している。
どの繰り返しのあたしも、同じ運命の中で、同じ行動をするんですって。
同じ色の魂は、引かれあってひとつになろうとする。
神の力が関与していないなら、魂はそのままひとつになる。そうして起こるのが『魂の重複』。
あたしの能力……『解を導き出す能力』が強化されて、思考が加速しているんですって。
時間に置き去りにされるような力だったのに、今後は、強化されていくにつれて、あたしが時間を置き去りにするって。
あたしたち家族が悲劇の中にいるのは、主神さま……創造神さまのせい。
人を襲い喰らう魔獣が生まれたのも、あたしの夫が消えてしまったのも、
あたしたちが魔獣に襲われたのも、ぜんぶ、創造神さまのせい、なんだって。
あたしの夫……アスターは、少年のころ、周囲の環境の悪さから気が狂って、弟を死なせてしまったこと。
すごく優秀な弟さんだったんですって、亡くなったことは知っていたけれど……
その弟さんは、創造神さまが自分の一部から作った、とても手をかけたこどもだった。
それで、創造神の怒りを買ってしまったって。
創造神さまは、ずっと昔の恋人の魂を追いかけて、ずっと手に入れようとしているんですって。
それが、白金の魂……あたしたちの娘、クリスフィアの魂。
だから、アスターを苦しめるために、彼を呪って、一番幸せな時に世界から追放して、
クリスフィアの魂を手に入れるために、あたしたちを魔獣に襲わせたってこと。
創造神さまがアスターにかけた呪いは、苦痛に満ちた死と異世界転移を繰り返す呪い。
幽霊みたいに取り付いて、意志を持って苦しめる呪い。
それで、ずっと死に続けながら歩いているって。

クレフィオルトは、あの日たしかに死んだ。けれど、魂を『群青星』っていう女神さまに拾われて、彼女の部下になった。
女神さまは、創造神さまが悪さをするせいで滅びそうになっている世界を救うために頑張っている。
何度も世界をループさせて繰り返しながら、滅びる原因をひとつひとつ潰している。
繰り返す度に新しいクレフが彼女と契約して、たくさんのクレフが増えて……

クリスフィアはあの日、密かに生き延びていたんですって。
けれど、魔獣の瘴気に汚染され、記憶も失い、とても帰れる状態ではなかったって。
創造神さまはあらゆる手段を使ってあの子を手に入れようとしているけど、それにも負けず懸命に生きていること。
記憶の奥底の父親に、騎士に憧れて、魔獣を狩り尽くす使命に奔走していること。
瘴気に侵されても魔獣にならない特異体質を利用して、どんなに苦しんででも魔獣を根絶やしにしようとしていること。

それからあたしは、彼と小間使いさんのお世話になりながら、劇場で過ごすことになった。
生活には全く不自由しなかったわ、大抵の望みは叶えてくれた。
でも、あたしは、全てを知りたいの。
彼はいつも、お茶とおいしいものを用意してくれたわ。
人の営み、特に食事を真似るのが好きなんですって。
それから、あたしは、何度も繰り返し、家族が苦しむ姿を見続けた。
何度も死にながら、旅を続けるアスター
心はとうに擦り切れて、ただ妻子のもとに帰ること、それだけがよすがだった
何度も繰り返しながら、足掻き続けるクレフィオルト
世界を救えば、愚かな主神の悪行を止めれば、きっと家族も救える、それだけが願いだった
何度も傷つきながら、戦い続けるクリスフィア
記憶もないのに、誰かの大切を奪う魔獣を狩り尽くし瘴気を根絶やしにすること、それだけが使命だった
どうしてあたしたちはこんな目に遭わなくちゃいけないの?
アウトサイダーから理屈を聞かされても、分からないわ。
どうして、創造神さまは。どうして、創造主は。演奏者は。こんな悲劇を、あたしたちに被せるの?納得なんてできない。
あたしを埋めるのは、手を伸ばしても届かない悲嘆、代わってあげられない苦しみ、それに、尽きない疑問、猜疑心、怒りだったわ。
何度も、何度も、世界を飛び越えて、旅を続けた。
さまざまな世界で、人助けとかしながら、いろんな技術や知識を手に入れて、
何十年も、何百年も、旅を続けたわ。
どこかで、あの子たちに会えるかもしれない。
どこかに、あの子たちを救う術があるかもしれない。
なんでもかんでも手を出して、なんでもかんでも考えて、書き残して、何か、何かできないかって。
時々、アウトサイダーのいる劇場に帰って、知りたがりの彼のために見てきたものの話をするの。
そうしたら、ある時、
「
魔獣と瘴気を根絶やしにすることは、世界を救うために必要なことだった。
だから、クリスフィアも群青星と契約を結び、世界の外に出て、瘴気を持つ全ての生物を根絶やしにする使命を背負い、戦い続けた。
彼女は魔獣を倒し、その瘴気を自分で取り込むことで、自分が最後の魔獣となろうとしていたんだ。
そんな彼女が最後に倒すべき者の前に立った。
それが、アスターだったんだ。
彼さえも気づいていなかったが、過去に魔獣との戦いで大怪我を負い、血肉を浴びた彼は、魔獣となるには至らずとも瘴気に汚染されていた。
そう、君が彼の命を救った、あの時の怪我だよ。

ああ、クリスフィアはその時気づいた、思い出したんだ、目の前の男こそが自分が憧れていた騎士、自分の父親であると。
しかし、アスターは目の前の存在が自分の娘だと気づかない。
当然だ、膨大な瘴気を抱えて歪んだ彼女の身体は獣同然だったから。騎士ならば魔獣は狩らなければならない。
だから当然のことだ。
当然、彼らは、刃を交えた。殺し合った。互いの命と、騎士としての誇りを賭けて。

結果は、……刺し違えだ。
アスターの斧槍がクリスフィアの心臓を貫き、クリスフィアの剣がアスターの首を掻き切った。
ああ、だが、終わらない。それでは終わらなかったんだ。
そう、魔獣の血を傷に浴びれば、瘴気は感染する。
クリスフィアの血を浴びたアスターは、獣になった。
理性を失ったアスターは、まだ僅かに意識の残るクリスフィアの身体を食い尽くした。
これで理性なき獣になれるなら、まだ良かったかもしれないね。
そうはならなかったんだ。
アスターにかけられた主神の呪いが、意志を持ち彼を苦しめる青い呪いが、彼が逃れることを許さなかった。
illust:GABAニューロンの苗床
結果として、彼は──
人としての意識を、人格を、正気を残したまま、最後の獣に成り果てた。
愛する娘を食ったことを自覚して、もう帰れない絶望と、滅ぼすべき魔獣になってしまった苦痛と、自身を滅ぼさねばならない使命と、身を焼き続ける飢餓と……何重もの棘に貫かれながら、死ねない旅が続く。
その惨状を見ていた存在がいた……そう、クレフィオルトのうちの一人だ。
父と姉が殺し合うのを、見ていることしかできなかった。
青い呪いが彼を邪魔して、挙句、彼を殺そうと攻撃した。
原初からの大量の情報を流し込む精神攻撃は、無力感に崩れていたクレフを怨霊に変えた。

クリスフィアはアスターの腹の中に囚われたままだ。彼女の魂はついに囚われて、振るう剣もなく、青い呪いに触れられ、……
」
ああ、もういいわ。
手段なんて、選ぶものですか。
何を消費しても
何を踏み潰してでも
何を犠牲にしてでも
あたしの一番星 を、取り戻さなきゃ。
あの子たちを、救って、
そしたら、いつか、
あの子たちを、あたしたちを、
こんな目に合わせた奴らを、
「殺してやる。」
そのため、読み飛ばせる部分は折りたたんでいます。
また、異形・流血・不穏などを含むイラストが折りたたみ部分に含まれています。
あたしは、沢山の世界を渡り歩いた。
世界を飛び越えるのはとても大変だけれど、きっとその先にあの子たちがいるって信じてるから。
いろんな世界で、いろんな技術や魔術を学びながら、旅をしていたの。
頭痛や幻聴、記憶の混濁とか……世界を飛び越えてる弊害かしら?
不調はいろいろあるけれど、こんなので止まっていられないし!
あるとき、とても小さな世界に降り立った。
真ん中に大きな建物(ああいうの、劇場っていうんだったかしら)があって、それを取り囲むように綺麗な庭園がある。
外周はぐるりとラベンダーで覆われていたわ。
あたしはその劇場の主人に招き入れられて、お茶をすることになったの。
ここにはその人と、小間使いが一人いるだけなんですって。
「ここに客が来るなんていつぶりだろうな。
改めて……はじめまして、麻糸。会えて嬉しいよ。」

麻糸
「……え? どうして、あたしの名前を?」
「……え? どうして、あたしの名前を?」
主人は、紅茶を注いであたしに差し出す。
「君のことはよく知っているよ。夫を失い、愛する子らを失ったことも、
世界を飛び出して何十年と旅をしていることも、最近様々な症状に悩まされていることも。」

麻糸
「あなたは誰?一体何者なの?」
「あなたは誰?一体何者なの?」
「ああ、名乗っていなかったね。そうだな……」
自分の分の紅茶を一口飲んでから、彼は微笑んだ。

アウトサイダー
「傍観者 。そう名乗ろうか。」
「
アウトサイダー:ある世界に住む謎の人物。麻糸や彼女の家族にまつわること、世界の真理など、様々なことを知っている。

アウトサイダー
「私の正体を知りたいかい? 君にとって、信じ難いことかもしれないよ。
ひいては、君の世界の真理に……そして、
君たち家族の運命に、興味はあるかい?」
「私の正体を知りたいかい? 君にとって、信じ難いことかもしれないよ。
ひいては、君の世界の真理に……そして、
君たち家族の運命に、興味はあるかい?」

麻糸
「あなたは、それを知っているの?」
「あなたは、それを知っているの?」

アウトサイダー
「ああ。」
「ああ。」

麻糸
「……知ることができるのなら、教えてちょうだい!」
「……知ることができるのなら、教えてちょうだい!」

アウトサイダー
「君の精神は耐えきれると思うかい?」
「君の精神は耐えきれると思うかい?」

麻糸
「どうなったって構わないわ!」
「どうなったって構わないわ!」

アウトサイダー
「……そうかそうか。そこまで言うなら話そうじゃないか。」
「……そうかそうか。そこまで言うなら話そうじゃないか。」

アウトサイダー
「君に全てを教えよう!」
「君に全てを教えよう!」
彼は……アウトサイダーは、あたしに多くのことを教えてくれたわ。
あたしの住んでいた世界には、『彩花庭園』という名前がついていること。
彼は、あたしたちが信じていた創造神さまよりも高位の存在であること。
アウトサイダーは上位者だ。

アウトサイダー
「創造主 が世界を作り、演奏者 が運命を奏で、
傍観者 ……つまり私が、それらを鑑賞している。
簡単に言えば、君たちという物語を見ているのが私だ。」
「
簡単に言えば、君たちという物語を見ているのが私だ。」

アウトサイダー
「私たちは異なる存在であり、それと同時に重なっている。
いわば、サイコロの別の面のような関係性だ。」
「私たちは異なる存在であり、それと同時に重なっている。
いわば、サイコロの別の面のような関係性だ。」

アウトサイダー
「自己紹介はこのくらいでいいだろう。
君の症状について語ろうか?」
「自己紹介はこのくらいでいいだろう。
君の症状について語ろうか?」

麻糸
「お願い!」
「お願い!」
あたしの頭痛と幻聴、それに記憶の混濁は……『魂の重複』が起きているから、ですって。
『魂の重複』という現象。
今、あたしがいた世界……『彩花庭園』は、何度も同じ時間を繰り返しているんですって。
そしてあたしは、世界が繰り返される度に世界を飛び出している。
どの繰り返しのあたしも、同じ運命の中で、同じ行動をするんですって。
同じ色の魂は、引かれあってひとつになろうとする。
神の力が関与していないなら、魂はそのままひとつになる。そうして起こるのが『魂の重複』。

麻糸
「じゃあ、あたしは……何人ものあたしが重なった存在ってこと?」
「じゃあ、あたしは……何人ものあたしが重なった存在ってこと?」

アウトサイダー
「そうだ。だから、記憶が混濁するし、それに能力や魔力回路も強化される。君は今能力を使っていた自覚はあるかい?」
「そうだ。だから、記憶が混濁するし、それに能力や魔力回路も強化される。君は今能力を使っていた自覚はあるかい?」

麻糸
「いいえ?だって、あたしの能力は一度使ったらしばらく過集中状態になるんだもの。」
「いいえ?だって、あたしの能力は一度使ったらしばらく過集中状態になるんだもの。」

アウトサイダー
「その状態が、瞬きの間に終わっているとしたら?」
「その状態が、瞬きの間に終わっているとしたら?」
あたしの能力……『解を導き出す能力』が強化されて、思考が加速しているんですって。
時間に置き去りにされるような力だったのに、今後は、強化されていくにつれて、あたしが時間を置き去りにするって。

アウトサイダー
「ただ、これについてはまだわかっていないことも多い。
そのまま重なり続ければどうなるだろうね。」
「ただ、これについてはまだわかっていないことも多い。
そのまま重なり続ければどうなるだろうね。」

アウトサイダー
「気分は落ち着いたかい?
なら、そろそろ本題に入るとしよう。」
「気分は落ち着いたかい?
なら、そろそろ本題に入るとしよう。」

麻糸
「ええ。あの子たちはどこにいるの?」
「ええ。あの子たちはどこにいるの?」

アウトサイダー
「まあ、順を追って話そうじゃないか。
何故君たちが、苦しみの中にいるのか。まずはそこからだ。」
「まあ、順を追って話そうじゃないか。
何故君たちが、苦しみの中にいるのか。まずはそこからだ。」
あたしたち家族が悲劇の中にいるのは、主神さま……創造神さまのせい。
人を襲い喰らう魔獣が生まれたのも、あたしの夫が消えてしまったのも、
あたしたちが魔獣に襲われたのも、ぜんぶ、創造神さまのせい、なんだって。
主神は何を求めて何をしたのか。

麻糸
「どうして、そんなことを……?」
「どうして、そんなことを……?」

アウトサイダー
「創造神はわがままなんだ。」
「創造神はわがままなんだ。」
あたしの夫……アスターは、少年のころ、周囲の環境の悪さから気が狂って、弟を死なせてしまったこと。
すごく優秀な弟さんだったんですって、亡くなったことは知っていたけれど……
その弟さんは、創造神さまが自分の一部から作った、とても手をかけたこどもだった。
それで、創造神の怒りを買ってしまったって。
創造神さまは、ずっと昔の恋人の魂を追いかけて、ずっと手に入れようとしているんですって。
それが、白金の魂……あたしたちの娘、クリスフィアの魂。
だから、アスターを苦しめるために、彼を呪って、一番幸せな時に世界から追放して、
クリスフィアの魂を手に入れるために、あたしたちを魔獣に襲わせたってこと。

麻糸
「じゃあ、あの子たちは、今……?」
「じゃあ、あの子たちは、今……?」
幸せたちは、今。
創造神さまがアスターにかけた呪いは、苦痛に満ちた死と異世界転移を繰り返す呪い。
幽霊みたいに取り付いて、意志を持って苦しめる呪い。
それで、ずっと死に続けながら歩いているって。


アウトサイダー
「呪いに嘲笑われながら、いつか帰れる、妻と子が待っている、そう信じて、歩き続けているよ。」
「呪いに嘲笑われながら、いつか帰れる、妻と子が待っている、そう信じて、歩き続けているよ。」
クレフィオルトは、あの日たしかに死んだ。けれど、魂を『群青星』っていう女神さまに拾われて、彼女の部下になった。
女神さまは、創造神さまが悪さをするせいで滅びそうになっている世界を救うために頑張っている。
何度も世界をループさせて繰り返しながら、滅びる原因をひとつひとつ潰している。
繰り返す度に新しいクレフが彼女と契約して、たくさんのクレフが増えて……


アウトサイダー
「永遠のような繰り返しの中で、一人増えては、心を壊して、一人ずつ消えていく。」
「永遠のような繰り返しの中で、一人増えては、心を壊して、一人ずつ消えていく。」
クリスフィアはあの日、密かに生き延びていたんですって。
けれど、魔獣の瘴気に汚染され、記憶も失い、とても帰れる状態ではなかったって。
創造神さまはあらゆる手段を使ってあの子を手に入れようとしているけど、それにも負けず懸命に生きていること。
記憶の奥底の父親に、騎士に憧れて、魔獣を狩り尽くす使命に奔走していること。
瘴気に侵されても魔獣にならない特異体質を利用して、どんなに苦しんででも魔獣を根絶やしにしようとしていること。


アウトサイダー
「ダムゼル・イン・ディストレスにはならない、
彼女は剣を振るい続ける。
それでも傷は増えるばかりだ。」
「ダムゼル・イン・ディストレスにはならない、
彼女は剣を振るい続ける。
それでも傷は増えるばかりだ。」

アウトサイダー
「皆、永遠の地獄のような苦しみの渦中にいる。」
「皆、永遠の地獄のような苦しみの渦中にいる。」

アウトサイダー
「……苦しんでいるようだね、無理もない。今日はもう休むといい。」
「……苦しんでいるようだね、無理もない。今日はもう休むといい。」

麻糸
「で、でも……」
「で、でも……」

アウトサイダー
「まだ知りたいんだろう?それに、君の話もしていない。衣食住の保証は任せてくれたまえ。」
「まだ知りたいんだろう?それに、君の話もしていない。衣食住の保証は任せてくれたまえ。」
それからあたしは、彼と小間使いさんのお世話になりながら、劇場で過ごすことになった。
生活には全く不自由しなかったわ、大抵の望みは叶えてくれた。
でも、あたしは、全てを知りたいの。
彼はいつも、お茶とおいしいものを用意してくれたわ。
人の営み、特に食事を真似るのが好きなんですって。

麻糸
「ねえ、あの子たちはどうすれば救えるの?」
「ねえ、あの子たちはどうすれば救えるの?」

アウトサイダー
「それは私の口からは言えないよ。私にできるのは、私が見ているものを君にも見せることだけだ。」
「それは私の口からは言えないよ。私にできるのは、私が見ているものを君にも見せることだけだ。」

アウトサイダー
「ただ、彼らの苦しみの記録たちから何かを見出そうとするのは……不可能ではないだろうね。」
「ただ、彼らの苦しみの記録たちから何かを見出そうとするのは……不可能ではないだろうね。」

麻糸
「見ることができるなら、見たいわ!」
「見ることができるなら、見たいわ!」

アウトサイダー
「君ならそう言うと思ったよ。」
「君ならそう言うと思ったよ。」
それから、あたしは、何度も繰り返し、家族が苦しむ姿を見続けた。
何度も死にながら、旅を続けるアスター
心はとうに擦り切れて、ただ妻子のもとに帰ること、それだけがよすがだった
何度も繰り返しながら、足掻き続けるクレフィオルト
世界を救えば、愚かな主神の悪行を止めれば、きっと家族も救える、それだけが願いだった
何度も傷つきながら、戦い続けるクリスフィア
記憶もないのに、誰かの大切を奪う魔獣を狩り尽くし瘴気を根絶やしにすること、それだけが使命だった
どうしてあたしたちはこんな目に遭わなくちゃいけないの?
アウトサイダーから理屈を聞かされても、分からないわ。
どうして、創造神さまは。どうして、創造主は。演奏者は。こんな悲劇を、あたしたちに被せるの?納得なんてできない。
あたしを埋めるのは、手を伸ばしても届かない悲嘆、代わってあげられない苦しみ、それに、尽きない疑問、猜疑心、怒りだったわ。

アウトサイダー
「この世界にいてはわからないこともあるだろう。
いつでも劇場 に繋がるチケットを用意してあげよう。」
「この世界にいてはわからないこともあるだろう。
いつでも

アウトサイダー
「いつでもここに帰っていい。旅をしてきなさい、麻糸。
君の探求心と知識は、きっと彼らを救う助けになるはずだ。」
「いつでもここに帰っていい。旅をしてきなさい、麻糸。
君の探求心と知識は、きっと彼らを救う助けになるはずだ。」
何度も、何度も、世界を飛び越えて、旅を続けた。
さまざまな世界で、人助けとかしながら、いろんな技術や知識を手に入れて、
何十年も、何百年も、旅を続けたわ。
どこかで、あの子たちに会えるかもしれない。
どこかに、あの子たちを救う術があるかもしれない。
なんでもかんでも手を出して、なんでもかんでも考えて、書き残して、何か、何かできないかって。
時々、アウトサイダーのいる劇場に帰って、知りたがりの彼のために見てきたものの話をするの。

麻糸
「魂って、とてつもない力を持ってるんですって。
何かに使えないかって思うのだけど……」
「魂って、とてつもない力を持ってるんですって。
何かに使えないかって思うのだけど……」

アウトサイダー
「戦争を続けている世界に宛がある。
そこなら魂も収穫し放題だろう。案内しようか?」
「戦争を続けている世界に宛がある。
そこなら魂も収穫し放題だろう。案内しようか?」

麻糸
「いえ。やっぱり、人の魂に手を出すのは……」
「いえ。やっぱり、人の魂に手を出すのは……」
そうしたら、ある時、

アウトサイダー
「感服するよ、麻糸。家族との再会だけを求めてあらゆる手を尽くす、それだけが祈りなんだね。」
「感服するよ、麻糸。家族との再会だけを求めてあらゆる手を尽くす、それだけが祈りなんだね。」

アウトサイダー
「方向は違ったが、全員が家族愛ゆえに歩き続けている。ああ、君たちは美しい家族だ。」
「方向は違ったが、全員が家族愛ゆえに歩き続けている。ああ、君たちは美しい家族だ。」

アウトサイダー
「……ああ、しかし、演奏者 は悲劇がお好きらしい。」
「……ああ、しかし、

アウトサイダー
「麻糸。残念な知らせがあるんだ。
君に続きを見る覚悟はあるかい?」
「麻糸。残念な知らせがあるんだ。
君に続きを見る覚悟はあるかい?」

麻糸
「……ええ!」
「……ええ!」
悲しいかな。
「
魔獣と瘴気を根絶やしにすることは、世界を救うために必要なことだった。
だから、クリスフィアも群青星と契約を結び、世界の外に出て、瘴気を持つ全ての生物を根絶やしにする使命を背負い、戦い続けた。
彼女は魔獣を倒し、その瘴気を自分で取り込むことで、自分が最後の魔獣となろうとしていたんだ。
そんな彼女が最後に倒すべき者の前に立った。
それが、アスターだったんだ。
彼さえも気づいていなかったが、過去に魔獣との戦いで大怪我を負い、血肉を浴びた彼は、魔獣となるには至らずとも瘴気に汚染されていた。
そう、君が彼の命を救った、あの時の怪我だよ。

ああ、クリスフィアはその時気づいた、思い出したんだ、目の前の男こそが自分が憧れていた騎士、自分の父親であると。
しかし、アスターは目の前の存在が自分の娘だと気づかない。
当然だ、膨大な瘴気を抱えて歪んだ彼女の身体は獣同然だったから。騎士ならば魔獣は狩らなければならない。
だから当然のことだ。
当然、彼らは、刃を交えた。殺し合った。互いの命と、騎士としての誇りを賭けて。

結果は、……刺し違えだ。
アスターの斧槍がクリスフィアの心臓を貫き、クリスフィアの剣がアスターの首を掻き切った。
ああ、だが、終わらない。それでは終わらなかったんだ。
そう、魔獣の血を傷に浴びれば、瘴気は感染する。
クリスフィアの血を浴びたアスターは、獣になった。
理性を失ったアスターは、まだ僅かに意識の残るクリスフィアの身体を食い尽くした。
これで理性なき獣になれるなら、まだ良かったかもしれないね。
そうはならなかったんだ。
アスターにかけられた主神の呪いが、意志を持ち彼を苦しめる青い呪いが、彼が逃れることを許さなかった。
illust:GABAニューロンの苗床結果として、彼は──
人としての意識を、人格を、正気を残したまま、最後の獣に成り果てた。
愛する娘を食ったことを自覚して、もう帰れない絶望と、滅ぼすべき魔獣になってしまった苦痛と、自身を滅ぼさねばならない使命と、身を焼き続ける飢餓と……何重もの棘に貫かれながら、死ねない旅が続く。
その惨状を見ていた存在がいた……そう、クレフィオルトのうちの一人だ。
父と姉が殺し合うのを、見ていることしかできなかった。
青い呪いが彼を邪魔して、挙句、彼を殺そうと攻撃した。
原初からの大量の情報を流し込む精神攻撃は、無力感に崩れていたクレフを怨霊に変えた。

クリスフィアはアスターの腹の中に囚われたままだ。彼女の魂はついに囚われて、振るう剣もなく、青い呪いに触れられ、……
」

アウトサイダー
「……はは、そんなになってまで、まだ見たいと願うかい?」
「……はは、そんなになってまで、まだ見たいと願うかい?」

アウトサイダー
「もう、見せられるものはここにはない。」
「もう、見せられるものはここにはない。」

アウトサイダー
「私にできることも、ない。
……私はこの小さな世界から出られないんだ。
外周にラベンダーが植わっているのを見ただろう?
私はラベンダーを越えられないんだ。」
「私にできることも、ない。
……私はこの小さな世界から出られないんだ。
外周にラベンダーが植わっているのを見ただろう?
私はラベンダーを越えられないんだ。」

アウトサイダー
「演奏者 は、私が物語と絡むことを許さない。
創造主 とも演奏者 とも混ざることを許さない。
だからあれを生やしたんだろう。」
「
だからあれを生やしたんだろう。」

アウトサイダー
「なのに君とこうして語れるのは……きっと、
君を絶望させようとするアレらの差し金だろうさ。」
「なのに君とこうして語れるのは……きっと、
君を絶望させようとするアレらの差し金だろうさ。」

アウトサイダー
「私は見ていることしかできない。だから、
彼らを救えるとするなら、やはり君なんだ。」
「私は見ていることしかできない。だから、
彼らを救えるとするなら、やはり君なんだ。」

アウトサイダー
「『クロスワールド』を探せ。数多の世界から来た物語が交錯する世界だ。
君たちという物語が、演奏者 の奏でる運命の手を離れるとするなら、きっとそこだ。」
「『クロスワールド』を探せ。数多の世界から来た物語が交錯する世界だ。
君たちという物語が、
ああ、もういいわ。
手段なんて、選ぶものですか。
何を消費しても
何を踏み潰してでも
何を犠牲にしてでも
あたしの
あの子たちを、救って、
そしたら、いつか、
あの子たちを、あたしたちを、
こんな目に合わせた奴らを、

「殺してやる。」