Eno.474 ライシュ  AR10A2: 散文 - はじまりの場所





先に断っておくが、面白い話は何もない。


俺は兵士としては、出来が悪いのかいいのか微妙なところだった。作戦中にキャンティーンを2つなくしたことがある。昨日の合言葉を言ったこともある。虫除けをライフルに注油して、肌にガンオイルを塗ったこともある(暗かった上に、ひどく疲れていた。仕方なかった)。

兵士になったのは、金が欲しかったからだ。それ以上でも以下でもない。
退役するとその後の生活や学業を政府に保障される法制度があって、別に、なんの夢もなかったから軍隊に入った。そういう奴は実はたくさんいた。
思想も、大義も、誇るものもなく。
あるのは若さ、体力、無鉄砲さくらい──それでも軍に入れば、なにか特別で、偉くなったような気がした。まやかしにしろ。
少なくとも一般人ではなくなった。


入隊して、フォート・レナード・ウッドでしばらく基礎訓練をしたあと、第一軍団地域の空挺部隊に配属された。ヘリボーンが流行っていた。何をやるかというと、奇襲、補給、ルート探索、撤退補助といったところで、たいていは気の滅入る任務だ。
俺がいろんなへまをしたのもその頃で、にも関わらず、よく部隊の先頭をやらされていた。斥候ポイントマンとしては出来が良かったのだ。

学んだことはいろいろあるが、だいたいの記憶は、どうしようもないものにまみれている。泥と、それから……


……
何を書けば?

花の話とか、青い空や風の話とか、そういうことが書けたらいいのだが。
最近暇だと言ったら、ハナコに休憩して日記でもつけたらどうかと言われた。そんな機能があったとは今の今まで知らなかった。

字が書けるというのは素晴らしいことだ。除隊して本を書いて儲けた奴のことを知っている。
まとまりのある何かを書くのは、難しい。俺には、教訓みたいなことが書けるわけでもない。


除隊したら……
思えば、最近そんな風に考えることもなくなってしまった。
戦地ではないどこかは、遠い、遠い場所になってしまった。
そして今は、このよくわからない島に迷い込んで、銃把の代わりにスコップなんかを握ってるわけだ。気が狂っているとしか思えない。
ここの風を浴びていると、気が狂ったままでいいような気もしてくる。

花は必要な場所に在るべき。昔そんな言葉があった。ここにいると思い出す。
記憶のどこかに、そんな言葉の輪郭だけがある。誰も知らなくても、俺はまだ憶えている。

 








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