Eno.482 ハル 桜の話 - はじまりの場所

『──ハルはねー、生まれた時に目の色が可愛くて。桜の花みたいだったから、ハルっていう名前にしたの』
『……さくら?』
『そうそう。お母さんが生まれたところでは毎年、春になると桜がいっぱい咲いてたんだ。公園でお花見したりしてね〜』
思い出を懐かしんで話す母。
どういう経緯だったかはもう忘れたが、子どもの頃に名前の話をしていた時。
母はそんな事を呟いていた。
母はこの世界の出身者ではない。
自分たちが生活している中心都市の上空に存在する裂け目──時空の裂け目から迷い込んだ異世界者だった。
この裂け目は数百年前から突如顕れ、時折どこかの異世界から外部存在が落ちてくる。
「春にしか咲かないの?」
「そう、ぱーっと咲いてさーっと散っちゃうんだよねえ……」
「
「はは、確かにそうなんだけどさ〜。お母さんここで桜の投影って見た事無いんだよね。
ここに生えてないっていうか、桜のこと知ってる人があんま居ないのかも。
それに……いつでも見れるのもいいけど、その時しか見れないのがなんか良かったの」
「……」
なんでだろう。いつでも見れた方が好きな時に楽しめるんじゃないだろうか。
当時の自分は母の話を聞いてそう思いながら。
記憶から語られる桜の花を、頭の中で想像していた。