Eno.133 兎耳天使ラビト  妹への手紙 - はじまりの場所



サシェルへ

お元気ですか。
わたしは元気です。

今、わたしは異世界の観光地に滞在しています。
空中に浮かぶ島。花と緑が豊かで、とても素敵なところですよ。
この地で冒険をしたり、花を育てたりして、楽しく過ごしています。
お友達もできました。

もちろん、コチレどんも一緒にいます。
あなたがくれたこの子に、どれだけ助けられているでしょうか。

天使としての立場からでは見えなかった苦しみが、ヒトの社会には山ほどあります。
地上で旅をする中で、大変なことが何度もありました。

挫けそうな時。
涙が止まらない時。
寂しくてたまらない時。

この子を抱きしめていると、あなたからもらった愛を思い出せて、心が温まります。
愛してくれてありがとう。あなたの存在は、わたしにとって、とても大きな喜びです。
きっといつか天界に帰りますから、安心して待っていてくださいね。

父様と母様にもよろしくお伝えください。

“      ”より



 幼馴染のひとり、プラメルがおれの様子を見に訪れた。
 ツインテールに結った赤みのある明るい金の髪に、熟したスモモのような虹彩。
ラビト
「らびらび~やほ~」

「ま~た、らびらび言ってる。あんたそんなキャラじゃないでしょ~」
ラビト
「まあ、そうですけれど」


 すんっ。

「ねえ“   ”、あたしといる時くらい、いつもの姿に戻ったら?
 あんたは“どちらかというと女の子”でしょ」
ラビト
「…………」

 そうでもないんだけどな。
 
 男でも女でもないと思うことが多い。
 女の子寄りの気分になることもあるけれど、その逆だってある。
 やっぱりどっちつかずだよ、おれは。
 
 けれど、自己主張しても仕方がないから、何も言わないでおいた。

 わかってもらえない、というのはとてもつらいことだ。
 だから、理解してもらうのを期待せず、本音は心の中に仕舞っておく方が良い。


 彼女に近況報告をして、そして雑談も交わした。

ラビト
「これ、フェメランサシェルに渡してほしいんです。頼めますか」

「手紙ね~。珍しいじゃない。何かきっかけでもあったの?」
ラビト
「この地でできた友人に、勧められまして」

「なんか幸せそうね~。
 まーあんたが楽しく過ごしてるみたいでよかったわ。
 以前はよく泣いてたし、心配してたのよ」

 旅が始まったばかりの頃は、幼馴染が会いに来てくれる度に泣きついたものだった。
 地上での暮らしが寂しくて。怖くて。

「じゃあ、また来るからね」
ラビト
「……ありがと」


 幼馴染達のことは好きだ。
 時折、会話の中で心が削られる感覚を覚えることもあるけれど、それはおれが自分の気持ちを言わず、訂正しないままでいるからで。

 理解してもらう努力の放棄は怠惰だろうか。
 性別二元論で構築された社会と噛み合わない己の性質に、おれはどのように向き合っていけばいいのだろうか。

 そんなことを思いながら。
 わたしは、妹からのプレゼントであるぬいぐるみコチレどんを抱きしめて、この日は眠りに就いたのでした。








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