Eno.733 木早 永心 この地での記録3 - はじまりの場所
家を出て以来、故郷に帰ったことは一度も無い。
生まれてより十五年の歳月を生きたあの地を離れるまでは、土地に根差し、家の為に生きることが当たり前であった。
その生き方を捨てた身となった以上、故郷に戻ることはできまい。
遠くへ、遠くへ
その気はなかったが、無意識の内に逃げるように故郷から離れた土地を旅していた。
当初の内は日銭を稼ぐことに苦労した。
笑ってしまう。
天賦の剣才だ、剣の申し子だと煽てられ、己自身にも少なからず有ったそんな剣への自負は生きる為の役には立たなかった。
剣の道しか知らぬ若僧が一人で生きてゆくのは、己が想像を遥かに超えて難しかったのだ。
正直に言えば、己が十五と少々のまだヒヨコ同然の身だったからこそ、生き延びられたと思っている。
世間というのは未熟な者に対し優しき者が多かったのだ。
(…逆に厳しき者も居たが)
ともあれ、生きる厳しさを学ぶことが出来た己が、何とか一人で日銭を稼げるようになって以来、色々なことをしたものだ。
猟師や真似事に漁師の下働きもした。
その内に、知己の縁を得た商人に薬などを売ることを勧められもした。
遠く離れた地の名産となる漢方の薬は、日持ちしまた重宝されるのであった。
だが、日々の暮らしが安定していたとは言えない。
根無し草の自由さは、安定とは無縁だ。
己が特技である剣を活かす稼ぎを幾度も考えた。
即ち、戦場にて剣働きをする傭兵業などはまさにそうだ。
しかし、己はそれを避けた。
理由は簡単だ。
ライシュ殿に語った様に、根無し草には帰属する"側"が無いからだ。
どちらに加担するかを決めるのは銭次第、そこに己の納得が無かった。
人が何を誇りに思うかは人次第だ。
それ故、傭兵となり、剣の才を活かし他人を斬ることを某は否定しない。
そういう生き方も有り得るのだと、生きることの厳しさを知った身としては受け入れていた。
だが、己に誇りなどというものが有るとすれば、それは剣を振る為の納得を求めることだろう。
傭兵業はしない。大道芸はする。用心棒はした。賞金稼ぎもした。
その線引きを誰かに上手く説明できる日は来るのだろうか。
生まれてより十五年の歳月を生きたあの地を離れるまでは、土地に根差し、家の為に生きることが当たり前であった。
その生き方を捨てた身となった以上、故郷に戻ることはできまい。
遠くへ、遠くへ
その気はなかったが、無意識の内に逃げるように故郷から離れた土地を旅していた。
当初の内は日銭を稼ぐことに苦労した。
笑ってしまう。
天賦の剣才だ、剣の申し子だと煽てられ、己自身にも少なからず有ったそんな剣への自負は生きる為の役には立たなかった。
剣の道しか知らぬ若僧が一人で生きてゆくのは、己が想像を遥かに超えて難しかったのだ。
正直に言えば、己が十五と少々のまだヒヨコ同然の身だったからこそ、生き延びられたと思っている。
世間というのは未熟な者に対し優しき者が多かったのだ。
(…逆に厳しき者も居たが)
ともあれ、生きる厳しさを学ぶことが出来た己が、何とか一人で日銭を稼げるようになって以来、色々なことをしたものだ。
猟師や真似事に漁師の下働きもした。
その内に、知己の縁を得た商人に薬などを売ることを勧められもした。
遠く離れた地の名産となる漢方の薬は、日持ちしまた重宝されるのであった。
だが、日々の暮らしが安定していたとは言えない。
根無し草の自由さは、安定とは無縁だ。
己が特技である剣を活かす稼ぎを幾度も考えた。
即ち、戦場にて剣働きをする傭兵業などはまさにそうだ。
しかし、己はそれを避けた。
理由は簡単だ。
ライシュ殿に語った様に、根無し草には帰属する"側"が無いからだ。
どちらに加担するかを決めるのは銭次第、そこに己の納得が無かった。
人が何を誇りに思うかは人次第だ。
それ故、傭兵となり、剣の才を活かし他人を斬ることを某は否定しない。
そういう生き方も有り得るのだと、生きることの厳しさを知った身としては受け入れていた。
だが、己に誇りなどというものが有るとすれば、それは剣を振る為の納得を求めることだろう。
傭兵業はしない。大道芸はする。用心棒はした。賞金稼ぎもした。
その線引きを誰かに上手く説明できる日は来るのだろうか。