Eno.374 如月 真二  Bとの出会い/くだらない話 - はじまりの場所

子供の頃、俺の世界は病院のベッドと白い天井だった。7歳の頃、心臓の病気で入退院を繰り返してた。母さんが毎日来て、父さんが仕事帰りに寄って、姉貴がバカなギャグで笑わせようとする。でも、俺は…そんな家族に迷惑かけてる自分が嫌いだった。自分が弱いせいで、みんなの時間を奪ってる気がして。夜、枕に顔埋めて泣いてたこともあった。家族は「真二がいるだけで幸せだよ」って笑ってたし、医者も「頑張ってるよ」って言うけど、俺には自分が重荷にしか思えなかった。

そんなとき、神埼満に出会った。同じ病院にいた、俺と同い年の女の子。彼女も病気で入院してたけど、いつもキラキラした目で笑ってた。初めて会った日、俺がポラロイドカメラで窓の外の雲を撮ってたら、「ねえ、それ貸して!」って話しかけてきて。ビックリしたけど、満はカメラを奪うように持って、俺の顔をパシャッと撮った。「これ、真二君の生きてる証!」って、ニコニコしながら写真を振ってた。あの時の笑顔にドキッとした。

満とはそれからよく一緒に過ごした。共有スペースでトランプしたり、俺が撮った写真を見ながらいつも褒めてくれた。それが、俺が写真にハマった理由だ。自分がこの世にいた証を残したいって思いは、満との時間で強くなった。でも、満には言えなかった。家族に迷惑かけてる自分が嫌いだってこと。満は「家族は迷惑なんて思わないよ。真二君がいるから笑えるんだ」って言ってたけど、俺の心は重かった。信じられなかったんだよ。だって、俺、医者から余命宣告されてたから。「長くて1年」だって。あの時の俺、ベッドで震えて、泣きながら震えてた。家族は「大丈夫だよ」って抱きしめてくれたけど、俺はもう絶望しかなかった。

そして、ある夜、俺は危篤状態になった。意識が朦朧として、皆が俺をこの世に繋ぎ止めようとしてひたすら声をかけてた。意識が落ちた時、真っ暗闇の中に光が見えたんだ。ちっぽけな、でもやけに眩しい光。なんか、吸い寄せられるみたいに手を伸ばしたら、そいつがパッと広がって、気がついたら意識が戻ってた。医者は「奇跡だ」って騒いでたのをよく覚えてる。あれから何年も経つけどあの時の出来事はつい昨日のように思い出せる。

満は数年前に病を克服して、今は大学で絵を勉強してる。こないだ電話で話したとき、「真二君の記事、読んだよ!」って連絡が来た。病気のことなんか微塵も感じさせない、元気でキラキラした声。俺は…まだこの心臓と付き合ってる。定期的に薬飲まないといけない人生。満が元気になったのは嬉しいけど、どこかで「なんで俺はまだ…」って思っちまってそんな自分が情けなくなる。

俺の財布には、幼い頃の数少ない家族写真と、満と撮った写真が飾ってある。家族の集合写真、満がピンボケで撮った俺とのツーショット。ボロボロだけど、俺の宝物だ。あの写真見てると、家族や満が支えてくれた事がよく分かる。さて、今日も薬を飲んで寝よう








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